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2月25日(日)
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疾患

  • 定義・概念
  • 人間の脳はたくさんの神経細胞とそれを支えるグリア細胞(※)からできています。この神経細胞が明らかな原因もなく衰えたり、死んでしまったりすることを「変性」といいます。脊髄小脳変性症(SCD , Spinocerebellar Degeneration)では、脊髄、小脳、脳幹といった部分を中心に変性が起こり、この部分の神経細胞が萎縮して神経障害をもたらします。脊髄小脳失調症(SCA,Spinocerebellar Ataxid)と呼ばれることもあります。

    ※ 神経系細胞のうちニューロンを除くすべての神経細胞の総称です。神経細胞を支えたり栄養を供給するなど、さまざまな新しいメカニズムがわかりつつあります。

    小脳は、片葉、虫部、小脳半球の順に分かれていて、片葉は頭の動きに合わせて目を動かす動きを調節しています。虫部は体幹や足から様々な感覚を受けて体の姿勢を制御しています。小脳半球は大脳からの命令、例えば「ものをつかむ」を受けて、手を伸ばしたり縮めたり、指を開いたり閉じたりと、いった動きを同時にスムーズにおこなえるよう調節しています。もし、小脳虫部が変性したらまっすぐ立ったり、歩いたりすることができなくなります。

    また、小脳半球が障害されたら、体の動きがぎごちなくなります。狙った所にものが置けなくなったり、一定のスピードで泡立て器をかき混ぜることができなくなったり、言葉を正確に発音することができなくなったりするのです。更に、下半身や体幹からの感覚情報を虫部に送る脊髄小脳路という神経線維がありますが、これが障害されると下半身や体幹の位置がわからなくなって、虫部の障害でみられるような千鳥足、ふらつきがあらわれます。

    脊髄小脳変性症は実は1つの病気ではなく、細かくみると何十もの疾患に分かれています。まず、「遺伝性」のものと遺伝性でない「孤発性」のものとに分かれます。孤発性のものは、変性が小脳に限られる「皮質性小脳萎縮症」(CCA)と、変性が大脳基底核や自律神経系にも及んでいく「多系統萎縮症」(MSA)に更に分かれます。多系統萎縮症には初発する神経系が3通りあって、それぞれ小脳系は「オリーブ橋小脳萎縮症」(OPCA)、大脳基底核系は「線条体黒質変性症」(SND)、自律神経系は「シャイ・ドレーガー症候群」(SDS)という名前がついています。

    遺伝性のSCDは遺伝の仕方から、「優性遺伝性群」と「劣性遺伝性群」とに分けられます。優性遺伝性SCDでは、約9割は原因遺伝子が解明されているとも言われており、病型の名前は遺伝子座が見つかった順から「SCA」の何番(例:「SCA1」)と呼ばれます。
    2011年6月、京都大学の小泉昭夫教授らが、脊髄小脳変性症の小脳障害に加え、筋萎縮性側索硬化症に似た運動ニューロン障害が見られる新たな遺伝性神経変性疾患の原因遺伝子を発見しました。これは脊髄小脳失調症36型(SCA36)と呼ばれています。
    京都大学プレスリリース 二つの難病(脊髄小脳変性症および筋萎縮性側索硬化症)の症状を示す新しい遺伝性神経変性疾患とその原因遺伝子を発見 http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2011/110617_1.htm)


    劣性遺伝性群の病型の中で最も頻度が高いのは欧米で患者さんが多い「フリードライヒ失調症」です。次いでカナダのケベック州で患者さんが多い「シャルルボア・サグネ型劣性遺伝性痙性失調症」(サクシン欠損症、ARSACS)、他には日本に多い劣性遺伝性SCDの「早発性失調症」(アプラタキシン欠損症)、ビタミンE欠乏を伴う失調症などがあります。

    厚生労働省の特定疾患の分類では、「多系統萎縮症」(MSA)の疾患は「脊髄小脳変性症」からは別項目(*1)となっており、「遺伝性痙性対麻痺」が脊髄の変性症として「脊髄小脳変性症」に含まれています。この疾患も原因遺伝子の解明が進んで、2008年時点で30を超える病型が明らかになっています。

    *1:特定疾患「多系統萎縮症」は平成15年10月に新たに作られた項目で、「シャイ・ドレーガー症候群」(昭和61年1月特定疾患に認定)、「オリーブ橋小脳萎縮症」(昭和51年10月認定、平成15年10月に「脊髄小脳変性症」から移管)、「線条体黒質変性症」(平成15年10月認定)からなります。

    ※大脳基底核…大脳皮質と視床、脳幹を結びつける神経核の集まり。線条体、淡蒼球、視床下核、黒質(発生学的・生理学的に大脳基底核の一部とされる)よりなります。

    ※フリードライヒ失調症…思春期に発症することが多く、暗い場所や顔を洗う時などに体がふらつくことから始まります。動くと息切れしたり(心筋症)、背骨の骨が曲がったり(側わん症)、足の土ふまずがアーチ状にへこんだり(凹足)、糖尿病になることもあります。欧米で多く見られ、日本で発見されたことはありません。(横田隆徳『21.代表的疾患6 Friedreich病ほか』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.89)

    ※シャルルボア・サグネ型劣性遺伝性痙性失調症…カナダ・ケベック州のシャルルボア、サグネ両地域で見られることからこの名前が付きました。今では世界各地から報告があり、日本でも少数ですが患者さんが報告されています。脊髄や末梢神経に障害がみられる小児性の疾患で、発症は早い例が多いですが、1歳未満?16歳までさまざまです。思春期、成人と進むにつれ、両足が硬直したり、だんだん歩行が困難になったり、指先が器用でなくなってきたり、両腕を協調させて動かすことができなくなったり、会話が難しくなったりして、最後には車いすを使うようになります。近年、多様な症状や遺伝子変異を示す例が報告されており、従来よりも広がりがある疾患であることがわかってきました。(瀧山嘉久『4.最近の進歩』、「脊髄小脳変性症のすべて」、P.25。及びシャルルヴォア・サグネ型痙性失調症財団(カナダ)のHPにおける解説、瀧山嘉久『シャルルヴォア・サグネ型痙性失調症(ARSACS)』『最新科学』2012.5、P.98-103)

    ※早発性失調症…初発年齢は1歳から20歳代後半で、歩き始めが遅れたり、歩行時にふらついたり、急に話に頭を振ったり(眼球運動失行に伴う運動)、といった症状から始まります。おおむね40歳までには車いす生活なります。(横田隆徳『21.代表的疾患6 Friedreich病ほか』「脊髄小脳変性症のすべて」P.91)

    (参照<この項目執筆するにあたって参照した文献(以下同じ)>:西澤正豊『脊髄小脳変性症の全体像と分類』「難病と在宅ケア」2008.6、P.46-48)、水澤英洋『2.種類と全体像』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.15)
  • 疫学
  • 厚生労働省の特定疾患医療受給者証の交付を受けた患者さんの数は、平成23年度には脊髄小脳変性症が25.047名、多系統萎縮症が11.797名となっています。
    大まかに言って、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症を合わせた全体の7割が孤発性の症例です。後の3割が遺伝性ですが、常染色体優性遺伝性がほとんどで、常染色体劣性遺伝性の症例は1~2%とみられています。

    優性遺伝性の中で最も多い疾患はマシャド・ジョセフ病で、SCA6、DRPLA(歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症)、SCA31が続いています。劣性遺伝性の中で多いのは、早発性失調症(アプラタキシン欠損症、あるいはEAOH/AOA1)で約3分の2を占めています。欧米に多いフリードライヒ失調症は日本には存在しないと考えられています。

    遺伝性痙性対麻痺の患者さんの頻度は人口10万人当り1人以下で、平成12~13年度の特定疾患個人調査票の分析では、全脊髄小脳変性症患者さんの2~3%となっています。

    ※マシャド・ジョセフ病…進行性の小脳失調を中心とする疾患で、この他に目玉の動きが悪くなったり、逆にきょろきょろしたり、眼がびっくりしたような顔つきになったり、パーキンソン病に似た症状が出たり、顔や側頭部にある筋肉が萎縮したり、末梢の神経が障害を受けたりします。(藤ヶ崎浩人『19.代表的疾患4 SCA1、2、3、7』「脊髄小脳変性症のすべて」、P.83)

    ※SCA6…脊髄小脳失調症6型(SCA6)は小脳失調症状しかあらわれない疾患で、歩く時にふらふらしたり、ものとの位置や距離がよくつかめなくなったり、呂律が回りにくくなったり、眼がきょろきょろしてめまいを覚えたりします。(冨満弘之『18.代表的疾患3 遺伝性純粋小脳失調症-SCA6その他-』「脊髄小脳変性症のすべて」、P.79)

    ※DRPLA…脳の中にある小脳歯状核、赤核、淡蒼球、ルイ体(視床下核)が、変性、萎縮していく疾患です。20歳未満の患者さんでは、筋肉がしゃっくりのように、瞬間的に不随意に動いたり、けいれん、精神発達遅滞があらわれます。成人の患者さんでは、踊りをおどるように体が不規則にゆっくりと不随意に動いたり、認知症やふるえ、ふらつきなどがみられたりします。(常深泰司『20.代表的疾患5 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症』「脊髄小脳変性症のすべて」、P.85)

    ※SCA31…脊髄小脳失調症31型は第16染色体長腕に責任遺伝子座がある疾患です。2009年に東京医科歯科大学を中心とした研究グループによって遺伝子座が特定されました。
    SCA6に似た小脳失調症状が主な臨床症状で、純粋小脳失調症と考えられています。
    特徴として、日本で多く見られ、海外ではほとんど見られない、我が国特有のSCAである、ということがあります。(水澤英洋ほか『脊髄小脳失調症31型(SCA31)』『最新医学』2012.5、P.43-49)

    ※早発性失調症…日本では発症間もない頃から、海外のフリードライヒ失調症に似た症状がみられる劣性遺伝子SCDが知られていましたが、解析の結果、小児期に認められる眼球運動失行と、20代を過ぎてみられる低アルブミン血症を特徴とする疾患であると明らかになりました。現在では、眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早期発症型失調症、EAOH/AOA1( Early-onset ataxia with ocular motor apraxia and hypoalbuminemia / ataxia with oculomotor apraxia type 1: EAOH/AOA1)と呼ばれることもあります。また日本で行われた解析で、「aprataxin」という遺伝子の変異が同定されたことから、「アプラタキシン欠損症」とも言われます。(西澤正豊『眼球運動失行を伴う失調症1型、2型』『最新医学』2012.5、P.85」、新潟大学脳研究所神経内科  基礎研究「アプラタキシン・TDP-43関連の研究」http://www.bri.niigata-u.ac.jp/~neuroweb/laboratory/research_basic_002.html#p01)

    ※遺伝性痙性対麻痺…遺伝性の神経変性疾患で、ひざを曲げずにロボットのように歩くのが特徴です。以前、この歩行を主体に他に足の変形、深部感覚障害、排尿障害を伴うことがある「純粋型」と、この歩行に加えて精神発達遅滞、認知症、末梢神経障害、小脳失調、パーキンソン症状などを伴う「複合型」に分かれていましたが、次第に原因遺伝子や遺伝子の位置が見つかり、現在はそちらによる病型の分類が多くなっています。(水澤英洋『22.痙性対麻痺』「脊髄小脳変性症のすべて」、P.92)

    (参照:西澤正豊『脊髄小脳変性症の全体像と分類』(『難病と在宅ケア』2008.6、P.47-48)、水澤英洋『2.種類と全体像』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.15-16)、瀧山嘉久『4.最近の進歩』(同、P.25)水澤英洋『22.痙性対麻痺』(同、P.92)、厚生労働省『平成19年度難病対策提要』P.456)
  • 自立率
  • 厚生省特定疾患・難病のケア・システム調査研究班『平成7年度特定疾患患者療養生活実態調査報告書』のデータを基に、厚生労働省が特定疾患の患者さんの日常生活における自立状態を推計していますが、それによると、平成10年度の脊髄小脳変性症の患者さん17,024人の自立率は53.9%、一部介助率は34.0%、全面介助率は12.2%でした。
    ちなみに別項目になっているシャイ・ドレーガー症候群の患者さん577人では、自立率は31.3%、一部介助率は31.3%、全面介助率は37.5%でした。

    (参照:厚生労働省『平成19年度難病対策提要』P.414)
  • 成因
  • 近年、分子遺伝学の研究が進んだおかげで、脊髄小脳変性症の各疾患の原因遺伝子が徐々にわかってきています。また、常染色体優性遺伝性の疾患の多くでは、原因遺伝子の中にあるシトシン(C)、アデニン(A)、グアニン(G)の3つが連なった塩基配列が異常に繰り返されていることが判明しました。DNAの中にあるCAGの連なりはグルタミン酸というアミノ酸を作る命令を出します。CAGの配列が繰り返されると、そこにはアミノ酸の長い鎖「ポリグルタミン鎖」ができます。このポリグルタミン鎖がCAGの異常な繰り返しによって正常ではない長さになると、せっかくできたタンパク質がうまく折りたためなくなり、正しい機能を果たせなくなります。また、この異常なタンパク質は細胞内に蓄積して、神経細胞を傷つけていると考えられています。このようにポリグルタミン鎖が原因となっておこる病気を、「ポリグルタミン病」と総称することがあります。(理化学研究所・脳科学総合研究センター・構造神経病理研究チームの解説http://www.riken.jp/pr/press/2009/20090422/)

    ※遺伝子…親から子へと受け継がれる生物の遺伝的要素を発現させるもとになります。染色体の中に一定の順序で配列されており、精子、卵子を通じて子孫に遺伝情報を伝えます。その実体はデオキシリボ核酸(DNA)の分子で、DNAは細胞内で合成されるタンパク質やリボ核酸(RNA)を作る命令を出します。DNAの情報は細胞の核の中でRNAに写し取られ、この伝令RNAは核から出てタンパク質を作る役目を持ったリボソームという小器官に行きます。リボソームは伝令RNAの情報を元にアミノ酸を並べ、タンパク質を合成します。紐のように合成されたタンパク質は正しい形に折りたたまれて、本来の力を発揮します。(広辞苑(第3版)「遺伝子」の項、NHK高校講座「生物」の「DNAとタンパク質」の回http://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/seibutsu/archive/chapter022.html)

    ※DNA…デオキシリボ核酸(DNA)はデオキシリボースという糖とリン酸と核酸塩基(塩基と略すこともあります)からなっています。塩基には4つの種類があり、それぞれ、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)という名前があります。デオキシリボースと塩基、リン酸が結合したものをヌクレオチドといい、4つの塩基に対応して4種類あります。このヌクレオチドが連なりDNAを構成しているのですが、その配列が遺伝情報に対応しています(広辞苑(第3版)「ヌクレオチド」の項、NHK高校講座「生物」の「遺伝物質DNA」の回
    http://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/seibutsu/archive/chapter021.html)

    ※グルタミン酸…脳内でアンモニアと結びついて、アンモニアを無毒化します。また、グルタチオンやガンマ-アミノ酪酸(GABA)の原料となったり、アラニン、アスパラギン酸、セリンを体の中で作る際にも使われます(協和発酵バイオの用語集「グルタミン酸」の項より
    http://www.kyowahakko-bio.co.jp/healthcare/aminoacid/yougo/2_07.html)。

    ここで、日本でみられる脊髄小脳変性症の代表的な疾患についてみてみましょう。
  • 1.孤発性脊髄小脳変性症
  • (1)多系統萎縮症
    多系統萎縮症には、オリーブ橋小脳萎縮症、線条体黒質変性症、シャイ・ドレーガー症候群がありますが、厚生労働省の特定疾患では「脊髄小脳変性症」の中に含まれていないため、当記事では説明を割愛させていただきます。

    (2)皮質性小脳萎縮症(CCA)
    皮質性小脳萎縮症は、遺伝性ではない孤発性の脊髄小脳変性症のひとつです。
    診断では、遺伝性脊髄小脳変性症、アルコールや薬剤、悪性腫瘍など外因脱随疾患や自己免疫疾患など他の疾患による小脳失調、多系統萎縮症を除外することが重要であると考えられています。特異的な画像所見、検査所見はなく、あくまで臨床症状や神経所見に基づいて、診断されます。
    主に成人期、特に40代後半から50代にかけての中年以降に発症することが多いです。
    主な臨床症状として、小脳失調に伴う緩やかに進行する運動障害がみられ、通常は認知症はみられません。
    皮質性小脳萎縮症は、上記の各疾患を除外していって、残った小脳失調症をいうので、現時点では、臨床・病理学的に単一の疾患ではなく、多様な疾患群の可能性があります。
    ですので、具体的な病因は特定されていません。他の脊髄小脳変性症と同じく、小脳および、小脳への伝達経路(救心路や遠心路など)に病変の主座があると考えられています。

    (参照:吉田邦広「皮質性小脳萎縮症(CCA)」『最新医学』2012.5 P.25~30)

  • 2.遺伝性脊髄小脳変性症
  • 常染色体優性遺伝性のものと常染色体劣性遺伝性のものがあります。
  • (1)常染色体優性遺伝性
  • 常染色体優性遺伝の疾患は、常染色体上にある1対の遺伝子において、父由来の遺伝子、母由来の遺伝子、いずれか一方に異常がある時に発症します。患者さんのお子さんが同じ病気になる遺伝子を持つ確率は50%です。優性遺伝性SCDでは、病型の名前は遺伝子座が見つかった順から「SCA(spinocerebellar ataxia)」の何番(例:「SCA1」)と呼ばれます。

    [1]マシャド・ジョセフ病(MJD、SCA3)
    この疾患はまずアメリカのマサチューセッツに住むマシャド家に伝わる遺伝性疾患として報告され、カルフォルニアに住むジョセフ家の疾患もこれと同じ原因によるものと考えらたことから、その名が与えられました。

    この疾患の原因遺伝子は、第14染色体長腕にあるMJD1遺伝子です。この中に、CAG反復配列の異常伸長があって、患者さんの神経細胞の中では変異タンパクが作られます。この変異タンパクが他の遺伝子やタンパクの代謝を障害して、最終的に細胞死にいたらせると考えられています。
    日本では一番多いタイプといわれています。

    (参照:金井数明『Machado?Joseph病(MJD)』『最新医学』2012.5、P.31?35、藤ヶ崎浩人『19.代表的疾患4 SCA1、2、3、7』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.83、水澤英洋『2.種類と全体像』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.18)

    [2]脊髄小脳失調症6型(SCA6)
    この疾患の発症には地域差があり、西日本で多くみられます。発症年齢は比較的高齢(平均50歳)で、ゆっくり進行することから寿命をまっとうできる患者さんが多いです。
    SCA6は、電位依存性P/Q型カルシウムチャネルアルファ1Aサブユニット遺伝子(CACNA1A)の変異によっておこることがわかっています。この遺伝子の末尾にはCAG反復配列があり、CAGリピート数は、正常アレルでは4~19ですが、SCA6の変異アレルでは19~33になっていることがわかってきました。この反復配列の数が多いほど、発症の年齢は低くなることがこれまでの研究でわかっています。

    ※電位依存性P/Q型カルシウムチャネルアルファ1Aサブユニット…神経細胞の膜にあって膜の外側と内側のカルシウムイオンの電位差を感じて開閉し、細胞内外のカルシウムイオンの出入りを調節します。(日本薬学会・薬学用語解説「イオンチャネル」の項http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%8D%E3%83%AB
    並びに、滋賀医科大学・小山なつ准教授「痛みと鎮痛の基礎知識」での「イオンチャネル」の解説)

    ※CAG反復配列…DNA上で、シトシン(C)、アデニン(A)、グアニン(G)の3つが連なった塩基配列が繰り返されることをいいます。

    ※アレル…遺伝子は、両親から受け継いだふたつの遺伝子が一対になっていて、これを対立遺伝子(アレル)といいます。同じような遺伝子ですが、完全に同じではなくわずかな違いがあります。この違いが、血液型、目や髪の色などに影響してくると言われています。(国立病院機構 四国がんセンター 家族性腫瘍(がん)相談室 日本語版「遺伝子診断の理解のために
    http://www.shikoku-cc.go.jp/kranke/support/genetic-familial/data.html)

    (参照: 冨満弘之『18.代表的疾患3 遺伝性純粋小脳失調症?SCA6その他?』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.79-80)?
    [3]DRPLA(歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症)
    「歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症」(dentorubropallidoluysian atrophy、DRPLA)という名前は、脳の中にある小脳歯状核、赤核、淡蒼球、ルイ体(視床下核)が、変性、萎縮していく疾患であることから名づけられました。日本の遺伝性脊髄小脳変性症の中では比較的多く見られる疾患で、マシャド・ジョセフ病、SCA6に次いで3番目に多いと言われています。
    この疾患は、12番染色体短腕にあるDRPLA遺伝子内のCAG反復配列が異常に伸びているためにおこります。正常な人の反復配列は7~23個ですが、DRPLAの患者さんの場合、49~75個あるいはそれ以上であることがわかりました。また、反復配列の数が多いほど、発症の年齢は低くなり、重症になります。また、世代を重ねるにつれてDNA上のCAG反復配列の数が増えて患者さんが若年化する「表現促進現象」という現象がよくみられます。ちなみに表現促進現象は父親から遺伝子を受け継ぐ時の方がより顕著に起こります。

    ※小脳歯状核…小脳は表層の小脳皮質と、内部の髄体からなります。髄体の中には小脳核という灰白質があり、歯状核、球形核、栓状核、室頂核の4つの部分に分かれます。歯状核はその中でも最も大きく、表面に鋸の歯のような凹凸があることから、こういわれます。(慶應義塾大学医学部解剖学教室・船戸和弥先生による「(二)小脳の内景」の解説よりhttp://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/anatomy/Textbook/anatomy16b-2-2.html)

    ※赤核…中脳の真ん中に中脳水道という脊髄の液が通る管が貫いていて、この中脳水道を中心に体の背中側の部分を蓋板といいます。腹側の部分は更に2つに分かれ、中脳水道寄りにある部分を被蓋、反対に腹寄りにある部分を大脳脚といいます。赤核は卵型をしていて被蓋の中にあります。細胞の中に鉄分を含むことから色が赤く、赤核と名づけられました。直立歩行などの運動の制御に関係しているといわれています。(慶應義塾大学医学部解剖学教室・船戸和弥先生による「(三)Mesencephalon(中脳)Mesencephalon, Midbrain」の解説よりhttp://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/anatomy/Textbook/anatomy16b-1-2-3.html)

    ※淡蒼球…大脳の底には大脳基底核があります。大脳基底核は大脳から体を動かすのに必要な幅広い情報(体を動かせという直接的な命令の他に視覚・聴覚・触覚などの感覚情報、位置や計算などの認知情報など)を受け取り、処理して、前頭葉へと送ります。運動命令は最終的には前頭葉から脊髄へ出されます。大脳基底核は、線条体、淡蒼球、黒質、視床下核の4つの神経核からなり、淡蒼球は外節と内節に分かれています。大脳から運動を抑制しようという命令が送られてきた場合、情報は線条体から淡蒼球外節へと送られ、そこから更に淡蒼球内節や視床下核へと送られます。視床下核は興奮性の作用を淡蒼球内節に及ぼして、淡蒼球内節は視床の働きを抑え、視床から大脳へは抑制的な運動の情報が送られます。一方、大脳から運動を促進しようという命令が送られてきた場合には、情報は線条体から淡蒼球内節へと送られ、淡蒼球内節は視床の働きを活発にし、視床から大脳へは促進的な運動の情報が送られます。(東京都神経科学総合研究所の「大脳基底核」の解説より
    http://tmin.igakuken.or.jp/medical/01/parkinson4.html)

    ※ルイ体(視床下核)…大脳基底核にある視床下核は19世紀のフランスの神経学者ルイが自著で初めて解説したところからルイ体ともよばれます。大脳基底核の他器官と共に、運動情報の処理をおこなっています。この核が傷つくと、反対側の半身に腕や足を激しく投げ出す不随意運動がおこります。(慶應義塾大学医学部解剖学教室・船戸和弥先生による「18. Nucleus subthalamicus(視床下核)Subthalamic nucleus」の解説よりhttp://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/anatomy/brain_mri/figf.html)

    ※12番染色体短腕…人間の細胞の核の中には23対の染色体があります(第1番から22番までの常染色体と性染色体)。対となる染色分体は接合して1組の染色体となっています。この接合部分をはさんで長い部分を長腕、短い部分を短腕といいます。12番染色体短腕は、12番染色体の短い部分を指します。

    ※CAG反復配列…DNA上で、シトシン(C)、アデニン(A)、グアニン(G)の3つが連なった塩基配列が繰り返されることをいいます。

    (参照:鈴木一詩『歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症 DRPLA』『最新医学』2012.5 P.50-58、常深泰司『20.代表的疾患5 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.85、87)

    [4]脊髄小脳失調症1型(SCA1)
    日本では患者さんの数は多くありませんが、地域的には東北・北海道地方に多くみられます。通常は成人に至って発症します。第6染色体短腕にあるSCA1遺伝子の中にあるCAG反復配列が異常に伸長しているのが原因と考えられています。

    ※第6染色体短腕…人間の細胞の核の中には23対の染色体があります(第1番から22番までの常染色体と性染色体)。対となる染色分体は接合して1組の染色体となっています。この接合部分をはさんで長い部分を長腕、短い部分を短腕といいます。第6染色体短腕は、第6番染色体の短い部分を指します。

    (参照:藤ヶ崎浩人『19.代表的疾患4 SCA1、2、3、7』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.82)

    [5]脊髄小脳失調症2型(SCA2)
    日本では患者数の少ない疾患で、地域的な偏りもみられません。発症年齢は2歳から70歳代までと幅広い報告がありますが、中でも40歳代の発症が多くみられます。失調性歩行で発症し、構音障害や四肢失調などの症状が起こる例が多いようです。原因遺伝子であるATXN2の正常アレルのCGAリピート数は32以下で、ほとんどは22であり、32リピート以上が異常伸張とされています。発症年齢は2歳から70代まで幅広い例が報告されていますが、40代発症が多いようです。

    (参照:安井建一、中島健二ほか『その他のピリグルタミン病』『最新医学』2012.5 P.59-69)


    [6]脊髄小脳失調症7型(SCA7)
    原因遺伝子であるATXN7のCGAリピートが異常伸張する事により発症する遺伝性の小脳変性症です。日本では極めて稀な疾患と言われています。視覚障害と小脳失調症状が主な臨床症状で、CGAリピート数により症状の強さ、発症年齢などに違いがあります。

    (参照:安井建一、中島健二ほか『その他のピリグルタミン病』『最新医学』2012.5 P.59-69)

    [7]脊髄小脳失調症31型(SCA31)
     2009年、東京医科歯科大学大学院・脳神経病態学分野(神経内科)の水澤英洋教授の研究グループが他の大学との共同研究で、第16番染色体長腕に連鎖する脊髄小脳失調症の原因が、5塩基繰り返し配列の挿入であることをつきとめSCA31と命名されました。
    SCA31は脳で働く遺伝子に正常では存在しない塩基配列が他から入り込んだ「挿入」変異によって起きている可能性があります。やや具体的に言うと、非翻訳領域に存在する5塩基繰り返し配列の挿入伸張があり、その中に通常の挿入配列とは異なる複雑な(TGGAA)nリピートが確認できるということです。

    SCA31は、純粋小脳失調症の家系群に関する解析によって確立した疾患です。第16染色体長腕に責任遺伝子座があることがわかっています。症状だけ見るとSCA6と非常に似ており、患者数もSCA6についで多いとされています。
    また、この疾患は海外ではほとんど見られず、日本において多いという、日本特有の脊髄小脳変性症です。発症する地域に偏りがあり、長野県や南九州で多いという報告もある。

    (参照:水澤英洋ほか『脊髄小脳失調症31型(SCA31)』『最新医学』2012.5、P.43、澤井摂『脊髄小脳失調症31型の遺伝学的臨床検査と遺伝カウンセリング』『難病と在宅ケア』2012年2月号、P.57)
  • (2)常染色体劣性遺伝性
  • 常染色体劣性遺伝の疾患は、常染色体上にある1対の遺伝子において、父由来の遺伝子、母由来の遺伝子、共に異常がある時にのみ発症します。多くの場合、患者さんの両親がいとこ婚であるなど血のつながりがあります。

    [1]フリードライヒ失調症
    19世紀後半に、ニコラス・フリードライヒにより報告された疾患です。歩行時のふらつきや筋力の低下など運動失調に加え、背骨の曲がり(脊柱の変形)、糖尿病などを合併することが特徴です。若年で発症し、症状は徐々に進行します。
    フラタキシンという原因遺伝子のGAAリピートの異常な伸長が原因と考えられています。
    欧米では比較的頻度の高い病気ですが、日本ではこれまでのところ、ひとりの患者も見つかっていません。

    (参照:内原俊記『Fridreich病とビタミンE単独欠損性失調症』『最新医学』2012.5、P.91、横田隆徳『21.代表的疾患6 Friedreich病ほか』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.89-90)

    [2]ビタミンE単独欠乏性運動失調症
    「ビタミンE単独欠乏性運動失調症」(ataxia with vitamin E deficiency、AVED)は、常染色体劣性遺伝の疾患で、脊髄小脳変性症の中で唯一根本的な治療ができる疾患です。暗い所や顔を洗う時にふらつきが強くなる特徴(洗面現象)を持っていて、小児期から思春期にかけて発症するタイプと40歳代から60歳代にかけて発症するタイプの2通りがあります。

    この疾患の原因は、肝臓にある「ビタミンE転送タンパク」の欠損、異常です。このタンパクにはビタミンEを体の中に保持する働きがあり、それが損なわれると、患者さんがいくら食事でビタミンEを摂ってもすぐに体から出てしまい、慢性的なビタミンE欠乏状態になります。ビタミンEが長期にわたって欠乏すると、神経の機能が障害されて体がふらつきます。

    (参照:横田隆徳『21.代表的疾患6 Friedreich病ほか』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.89-90)

    [3]アプラタキシン欠損症
    「眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早発型失調症」(early-onset ataxia with ocular motor apraxia and hypoalbuminemia、EAOH)というのが正しい疾患名で、原因遺伝子「アプラタキシン」の名前をとって「アプラタキシン欠損症」ともいわれます。日本の劣性遺伝性SCDの中では最も患者さんが多く、その3分の2を占めています。初発年齢は1歳から20歳代後半で、歩き始めが遅れたり、歩行時にふらついたり、わざとはなしに頭を振ったり(眼球運動失行に伴う運動)、といった症状から始まります。おおむね40歳までには車いす生活になります。

    ※眼球運動失行…無意識ではものが自然とみえるのに、意識的に対象物を見ようとすると目が動かなくなり、見るために頭を盛んに動かします。
    ※アプラタキシン…アプラタキシン遺伝子からつくられるアプラタキシンタンパクは、342のアミノ酸からなり、細胞の核に存在しています。酸化のストレスによってDNAの1本の鎖が切断、損傷した時にこれを修復する働きを担っていると考えられています。(新潟大学脳研究所神経内科の研究紹介「アプラタキシン・TDP-43関連の研究」より「1. 眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早期発症型失調症」の項 http://www.bri.niigata-u.ac.jp/~neuroweb/laboratory/research_basic_002.html)

    (参照:横田隆徳『21.代表的疾患6 Friedreich病ほか』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.90-91)

  • 3.遺伝性痙性対麻痺
  • 遺伝性の神経変性疾患で、ひざを曲げずにロボットのように歩くのが特徴です。脊髄の錐体路が主に障害されておこります。病型が多く、報告者の名を冠して「シュトリュンペル‐ロラン症候群」と呼ばれることもあります。遺伝性痙性対麻痺は以前、痙性対麻痺が主体で、他に足の変形、深部感覚障害、排尿障害を伴うことがある「純粋型」と、痙性対麻痺に加えて精神発達遅滞、認知症、末梢神経障害、小脳失調、パーキンソン症状などを伴う「複合型」に分かれていましたが、次第に原因遺伝子や遺伝子座が見つかるようになって、現在はそちらによる分類が多くなっています。病型の名前は見つかった順から「SPG(spastic gait:痙性歩行)」の何番(例:「SPG1」)と呼ばれます。病型はたくさんあるものの、大部分はまれで、常染色体優性遺伝性では、SPG3A、SPG4が、日本の常染色体劣性遺伝性ではSPG11が多くみられます。(*1)

    *1:主な遺伝性痙性対麻痺としては、伴性劣性遺伝:SPG1、2、16、常染色体優性遺伝:SPG3A、4、6、8、9、10、12、13、17、19、常染色体劣性遺伝:SPG5A、7、11、14、15、20、21があります。

    ※錐体路…延髄の錐体を通る運動神経線維の経路をいいます。

    ※深部感覚…皮膚感覚ではなく、体の関節の位置の感覚、振動などの感覚をいいます。

    ※パーキンソン症状…安静時のふるえ、筋肉のこわばり、動作の緩慢、姿勢が保ちにくいなどの症状をはじめ、パーキンソン病にあらわれるさまざまな症状を総称してこういいます。

    ※遺伝子座…染色体における遺伝子の場所

    ※伴性劣性遺伝…一方のX染色体にある遺伝子の異常によって起こりますが、対になるもう一方の遺伝子に異常がない場合には発症しません。このため、男性(XY)は確実に発症しますが、女性(XX)が発症する確率は非常に低いです。

    (参照:水澤英洋『22.痙性対麻痺』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.92-93)
  • 臨床症状
  • 脊髄小脳変性症では、多くの疾患で小脳失調症状(小脳症状)があらわれます。小脳症状は、体のあちこちでみられます。立っていると大きく前後に約3Hzの周期でゆれます。歩く時は足のスタンスを広くとって、ゆっくりと、せまい歩幅で歩みます。四肢の動きでは、手や足を目標とする場所に持っていけなくなったり(測定障害)、ひとつの運動がスムーズに行えなくなったり(運動の分解)、前腕を素早く内外へぐるぐる回すとリズムが崩れてバラバラになってしまったり(アディアドコキネーシス)、という症状が出ます。言葉や目の動きでは、呂律が回らないしゃべりをしたり(断綴性言語)、目が一定の方向にゆれたり(前庭性眼振)、動く目標を眼でなめらかに追うことができずに素早く小刻みに追ったり、左右の目標を交互に素早く追おうとしても、1回で目標に眼を固定できないことがあります。また、右の方を見る時は右へ向かう、左の方を見る時は左へ向かう眼振がみられます。

    また、脊髄小脳変性症では、小脳・脊髄が関与している以外の神経システムでも障害が出ることがあります。錐体路という経路を通って大脳から末梢神経に筋肉を動かすように命令をあたえる「運動システム(錐体路システム)」では運動麻痺、筋力低下、筋肉のこわばり、つっぱりが、触覚・温度と痛みの感覚・位置覚に関与する「感覚システム」ではしびれ、痛みが、「自律神経システム」では排尿障害や立ちくらみが、不随意運動に関与する「錐体外路システム」ではふるえ、パーキンソン症状が、「聴覚システム」では難聴が、また複数のシステムにまたがるかたちで、嚥下障害や誤嚥性肺炎などがみられます。これらの詳細につきましては、各疾患の説明をご覧ください。

    ※錐体外路…大脳皮質を経ない運動路をいいます。

    (参照:三苫博『5.小脳性運動失調』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.31)、山脇正永『6.失調症以外の症候』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.33-36))
  • 1.孤発性脊髄小脳変性症
  • (1)多系統萎縮症
    厚生労働省の特定疾患では「脊髄小脳変性症」の中に含まれていないため、ここでは割愛させていただきます。

    (2)皮質性小脳萎縮症
    歩行時のふらつきから始まることが多く、最終的にはどの患者さんにも歩行障害があらわれます。字がうまく書けなくなったり、呂律が回りにくくなったりといった小脳症状がみられますが、症状はゆっくりと進みます。最終的には車いすを使うようになる方が多いです。

    (参照:融衆太『17.代表的疾患2 孤発性の純粋小脳失調症』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.76)
  • 2.遺伝性脊髄小脳変性症
  • (1)常染色体優性遺伝性
  • [1]マシャド・ジョセフ病(MJD、SCA3)
    進行性の小脳失調が中心となりますが、この他に目玉の動きが悪くなったり、逆にきょろきょろしたり、眼がびっくりしたような顔つきになったり、パーキンソン病に似た症状が出たり、顔や側頭部にある筋肉が萎縮したり、末梢の神経が障害を受けたりします。また、インポテンツや立ちくらみなどの自律神経の障害や睡眠の障害もあらわれます。

    (参照:藤ヶ崎浩人『19.代表的疾患4 SCA1、2、3、7』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.83)

    [2]脊髄小脳失調症6型(SCA6)
    この疾患では、小脳皮質にあるプルキンエ細胞が選択的に障害されるために、純粋に小脳失調症状しかあらわれません。歩く時にふらふらしたり、ものとの位置や距離がよくつかめなくなったり、呂律が回りにくくなったり、眼がきょろきょろしてめまいを覚えたり、といった小脳症状があらわれます。

    ※プルキンエ細胞…小脳は表層にある小脳皮質と内部の髄体からなります。小脳皮質は表層から髄質に向かって、分子層、神経細胞層、顆粒層の順に重なっていて、プルキンエ細胞は分子層の奥に並んでいます。プルキンエ細胞は大型の神経細胞で、表面に向かっては樹状突起が、内部の髄体の小脳核に向かっては軸索突起が伸びています。(慶應義塾大学医学部解剖学教室・船戸和弥先生による「(二)小脳の内景」の解説http://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/anatomy/Textbook/anatomy16b-2-2.html)

    (参照:冨満弘之『18.代表的疾患3 遺伝性純粋小脳失調症-SCA6その他-』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.79-80)

    [3]DRPLA(歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症)
    DRPLAの症状は多彩ですが、これはCAG反復配列の数と密接な関係があります。20歳未満で発症する患者さんは、従来、進行性ミオクローヌス性てんかんの1つに分類されていました。症状としては、ミオクローヌスと呼ばれる不随意運動やけいれん、精神発達遅滞があらわれます。成人の患者さんではミオクローヌスは少なく、認知症やふるえ、ふらつきなどの小脳失調、舞踏アテトーゼのような不随意運動がみられます。

    ※ミオクローヌス…しゃっくりのように、筋肉が瞬間的に不随意に動くことをいいます。
    ※舞踏アテトーゼ…舞踏病(顔、舌、手、足の不随意運動)とアテトーシス(顔、手、指などにあらわれる不規則なゆっくりとした不随意運動)が混在する場合にこのような言い方をします。

    (参照:常深泰司『20.代表的疾患5 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.85、86)

    [4]脊髄小脳失調症1型(SCA1)
    初期には軽度の歩行障害や字が書きづらい、呂律が回りにくいといった症状があらわれます。病状が進行すると、腱反射が過剰に見られたり、目がきょろきょろしたり、逆に動きがおそくなったり、顔の筋肉の筋力が低下したり、食べたものを飲み下しにくくなったり、息がくるしくなったりします。末期には肺炎などの感染症を繰り返します。

    (参照:藤ヶ崎浩人『19.代表的疾患4 SCA1、2、3、7』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.82)

    [5]脊髄小脳失調症31型(SCA31)
    歩行時にふらつく、狭いところではぶつかってしまう、などのバランス障害がみられます。ろれつが回らなくなったり、耳が聞こえにくくなったりする例もあります。
    多くは50代以降に発症し、徐々に進行していきます。

    (参照:石川欽也、水澤英洋ほか『脊髄小脳失調症31型の発見』『難病と在宅ケア』2011.7、P.35、石川欽也、水澤英洋ほか『脊髄小脳失調症31型(SCA31)』『最新医学』2012.5 P.43)
  • (2)常染色体劣性遺伝性
  • [1]フリードライヒ失調症
    20代半ばまでに発症する進行性の病気です。歩く時にふらついたり、うまくしゃべれなくなったり、筋力が低下するなどの症状が徐々に進行していきます。さらに、糖尿病や、背骨の曲がり(脊柱の変形)、拡張型の心筋症などを合併することが多いのも特徴です。
    先述のように、まだ日本では患者さんは見つかっていなません。
    (参照:内原俊記『Fridreich病とビタミンE単独欠損性失調症』『最新医学』2012.5、P.91-97)

    [2]アプラタキシン欠損症
    アプラタキシン欠損症ではゆっくりと進行する小脳症状の他に、病初期に眼球運動失行が、進行期には低アルブミン血症と高度な末梢神経障害があらわれます。多くの例で知能低下があり、学校の授業についていけなくなりますが、知能が侵されない場合もあります。

    ※低アルブミン血症…アルブミンは血清中にあるタンパクで、物質の運搬や血液の浸透圧の調整にかかわっています。低アルブミン血症は血清中のアルブミンの濃度が低下した状態をいいます。

    (参照:横田隆徳『21.代表的疾患6 Friedreich病ほか』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.91、佐藤達哉、他田正義、小野寺理『末梢神経疾患 2.眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早期発症型脊髄小脳失調症』(『Annual Review神経』Vol.2009、2009、P.226-232))

    [3]ビタミンE単独欠乏性運動失調症
    ビタミンE単独欠乏性運動失調症では、洗面現象の他に、ろれつが少し回りにくくなる、箸づかいが下手になるなどの症状があります。また、立ったり座ったりする時の手のふるえが半数の患者さんにみられ、また頻度は低いですが、背骨が曲がる側わん症があらわれたり、足の土ふまずが弓状にへこんだりします。重症例では、手足や筋肉の力が衰えたりしますが、パーキンソン症状を示すことはありません。

    グループ別にみると、小児期から発症するグループには重症になる患者さんが多く、20歳代から30歳代で車いすの生活に入る方がたくさんいます。一方で、40歳代から60歳代にかけて発症するグループは比較的軽度で、ふらつきはひどくなるものの発症10年後でも自力で歩くことができるようです。合併症では、小児期からのグループで心筋症がみられることがあり、中高年のグループでは半数に網膜色素変性症があらわれます。

    (参照:横田隆徳『21.代表的疾患6 Friedreich病ほか』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.89-90)
  • 3.遺伝性痙性対麻痺
  • 遺伝性痙性対麻痺でもっとも重要な症状は、ひざが突っ張って曲がりにくくなり、床を擦るように歩くことです(痙性歩行)。足の裏は内側にねじれた形になりやすく、外側に孤を描くように床を擦りながら歩きます。内股の筋肉の緊張が強いと、両足が交差するようになります(鋏足歩行)。筋力の低下は比較的軽く、筋肉の萎縮は普通みられません。また、膝蓋腱反射やアキレス腱反射が過剰にみられ、バビンスキー徴候やチャドック反射が観察されます。筋肉の緊張が強くなると、筋を他人に曲げてもらおうとする時に最初に力をうんと入れないと曲がらない状態(痙縮)になります。その一方で、上肢では腱反射は亢進することが多いですが、痙縮や脱力はみられません。

    他の症状については、純粋型では軽い深部感覚障害や排尿障害がみられるものの、それ以外の症状はありません。複合型の場合は、精神発達遅滞、認知症、末梢神経障害、小脳失調、パーキンソン症状、末梢神経障害、難聴、視覚障害など錐体路以外のさまざまな神経症状があらわれます。

    ※膝蓋腱反射…膝の下をハンマーでたたくと足が跳ね上がる反射のことです

    ※アキレス腱反射…アキレス腱をハンマーでたたくと、足先(尖)が下を向くように動く反射のことです。

    ※バビンスキー徴候…足の裏をペンでつま先に向かって引っ掻くと、普通親指は足の底の方に曲がりますが、錐体路に障害があると足の甲の側に曲がります。

    ※チャドック反射…足の外くるぶしの下を後ろから前へこすると、錐体路に障害がある時には足の親指は甲の側に曲がります。

    (参照:水澤英洋『22.痙性対麻痺』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.92-94)
  • 診断
  • 変性疾患としての脊髄小脳変性症の診断には、小脳性運動失調を呈する他の疾患との鑑別が重要です。緩徐進行性の疾患としては、小脳腫瘍や多発性硬化症等である場合も否定できません。鑑別にはMRIによる画像診断が役立ちます。病型の診断は臨床症候の組み合わせと画像診断の結果を総合的に判断して行います。遺伝性のものについては遺伝子診断が有効です。
    厚生労働省による診断基準は以下の通りです。

    [主要項目]
    脊髄小脳変性症は、運動失調を主要症候とする原因不明の神経変性疾患の総称であり、
    臨床、病理あるいは遺伝子的に異なるいくつかの病型が含まれる。臨床的には以下の特徴を有する。
    (1)小脳性ないしは後索性の運動失調を主要症候とする。
    (2)徐々に発病し、経過は緩徐進行性である。
    (3)病型によっては遺伝性を示す。その場合、常染色体優性遺伝性であることが多いが、常染色体劣性遺伝性の場合もある。
    (4)その他の症候として、錐体路徴候、錐体外路徴候、自律神経症状、末梢神経症状、高次脳機能障害などを示すものがある。
    (5)頭部のMRIやX線CTにて、小脳や脳幹の萎縮を認めることが多く、大脳基底核病変を認めることもある。
    (6)脳血管障害、炎症、腫瘍、多発性硬化症、薬物中毒、甲状腺機能低下症など二次性の運動失調症を否定できる。


    [各病型の診断基準]
  • 1.孤発性脊髄小脳変性症
  • (1)皮質性小脳萎縮症(Cortical cerebellar atrophy, CCA)〔従来の診断基準における晩発性小脳皮質萎縮症(LCCA)と同じ病型〕
    [1]中年以降に発病する孤発性疾患で、遺伝性はない。
    [2]初発・早期症状として小脳性運動失調のみが前景に現れる。
    [3]パーキンソニズム、自律神経症状が出現することはない。
    [4]頭部のX線CTやMRIで、小脳にのみ萎縮を認める。
    [5]アルコール中毒、悪性腫瘍、甲状腺機能低下症、抗てんかん薬中毒症など二次性に生じる小脳性運動失調症あるいは小脳萎縮などが除外できる。
    付記
    1.純粋に小脳症状のみを呈する病型であり、進行が著しく遅い。
    2.臨床症状が小脳症状だけであっても、画像的に脳幹の萎縮を認める場合には多系統萎縮症(オリーブ橋小脳萎縮症)として経過を観察する。
  • 2.常染色体優性遺伝性脊髄小脳変性症
  • 我が国では、遺伝性脊髄小脳変性症の中では、常染色体優性遺伝性を示すものが多い。最近の分子遺伝学の進歩により、およそ70%については、病因遺伝子が同定されており、遺伝子診断が可能になっている。これまで、我が国では、遺伝性オリーブ橋小脳萎縮症、遺伝性皮質性小脳萎縮症というとらえ方で分類されてきたが、病因遺伝子の同定とともに、その分類も病因遺伝子を基盤とするものに変わりつつある。ただし、約30%については病因遺伝子が未同定であり、これらの群については、引き続き、臨床、病理、分子遺伝学の立場から検討を続ける必要がある。
    A)Machado‐Joseph病(MJD)〔spinocerebellar ataxia type 3(SCA3)とも呼ばれる〕
    [1]常染色体優性遺伝を示し表現促進現象がある。
    [2]若年~中年、ときに老年に小脳性運動失調を初発する。
    [3]眼振、錐体路徴候(痙性を示すことが多い)がほぼ共通に見られ、その他アテトーシス、ジストニア、びっくり眼、顔面ミオキミア、眼球運動障害、筋萎縮などもある。晩期には感覚障害、自律神経症状(特に排尿障害)も認められることがある。
    [4]頭部のX線CTやMRIで小脳萎縮、脳幹(特に被蓋部)萎縮を認める。
    [5]第14染色体長腕に遺伝子座をもつMDJ1遺伝子内のCAGリピートに異常伸長(55リピート以上)を認める。
    付記
    1.地域によって頻度分布は異なるが、我が国全体で見ると、遺伝性脊髄小脳変性症の中で、最も頻度が高い病型である。

    B)脊髄小脳失調症6型 spinocerebellar ataxia type 6(SCA6)
    [1]常染色体優性遺伝を示すが表現促進現象は認めない。
    [2]中年~老年に小脳性運動失調で発症する。
    [3]歩行障害、四肢の失調、構音障害など、純粋小脳失調を呈する。眼振が認められるが、外眼筋運動障害はない。経過は慢性である。
    [4]頭部のX線CTやMRIで小脳萎縮のみを認める。
    [5]第19染色体長腕上の電位依存性カルシウムチャネルのアルファ1Aサブユニット遺伝子内のCAGリピートに異常伸長を認める(19リピート以上は本症の発症に強く関与している)。

    C)歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症 (Dentatorubropallidoluysian atrophy, DRPLA)
    [1]常染色体優性遺伝を示す。顕著な表現促進現象(世代を経るに従い発症年齢が若年化する現象)が認められる。
    [2]発病年齢は小児から中年まで幅広く、発病年齢によって臨床症状が異なる。
    [3]20歳以下の若年発病では、ミオクローヌス、てんかん、精神発達遅滞又は認知症、小脳性運動失調が主症状である。40歳以上の発病では小脳性運動失調、舞踏アテトーシス、性格変化、認知症などが主症状である。20~40歳では上記の移行型を示す。
    [4]眼振や錐体路徴候を呈することがあるが、外眼筋麻痺、筋萎縮、感覚障害などはほとんどない。
    [5]頭部のX線CTやMRIで小脳萎縮、脳幹萎縮を認める。また、経過が長い症例、高齢発症者にはMRI T2強調画像で大脳白質にびまん性の高信号域を認める例がある。なお、尾状核の萎縮は認めない。
    [6]第12染色体短腕に座をもつ遺伝子内のCAGリピートに異常伸長を認める(49リピート以上)。
    付記
    1.発病年齢によって症状が異なることが重要。
    2.てんかん発作を示す脊髄小脳変性症の場合にはこの病型をまず疑う。
    3.ハンチントン舞踏病と鑑別する。

    D)脊髄小脳失調症1型 spinocerebellar ataxia type 1(SCA1)
    [1]常染色体優性遺伝を示す。
    [2]発病年齢は、若年~中年と幅が広い。
    [3]小脳失調で発症し、腱反射亢進、注視眼振、外眼筋麻痺などが認められる。進行期には筋萎縮、外眼筋麻痺、腱反射の低下を伴うことが多い。
    [4]頭部X線CTやMRIで小脳萎縮、脳幹萎縮を認める。
    [6]第6染色体短腕に遺伝子座をもつSCA1遺伝子内のCAGリピートに異常伸長を認める(40リピート以上)。

    E)脊髄小脳失調症2型 spinocerebellar ataxia type 2(SCA2)
    [1]常染色体優性遺伝を示す。
    [2]発病年齢は、若年~中年と幅が広い。
    [3]小脳失調で発症することが多い。発症早期から、緩徐眼球運動、腱反射の低下がみられることが多く、本疾患の特徴。痙性はまれで、むしろ筋ト-ヌスは経過と共に低下。発動性低下や人格低下も病期後半にあらわれる。進行性外眼筋麻痺はまれ。眼振も少ない。頭部などの遅い振戦(3Hzくらい)、舞踏病様運動、斜頚、ジストニ-などを伴う不随意運動なども記載されている。
    [4]頭部X線CTやMRIで小脳萎縮、脳幹萎縮を認める。
    [6]第12染色体長腕に遺伝子座をもつSCA2遺伝子内のCAGリピートに異常伸長を認める(33リピート以上)。

    F)脊髄小脳失調症7型 spinocerebellar ataxia type 7(SCA7)
    [1]常染色体優性遺伝を示す。
    [2]発病年齢は、若年~中年と幅が広い。
    [3]初発症状としては、小脳失調か視力低下のどちらかであることが多い。視力低下を伴うことが多く、眼底検査で、網膜黄斑部変性が認められる。腱反射亢進、下肢の痙性、緩徐眼球運動、外眼筋麻痺と認めることが多い。
    [4]頭部のX線CTやMRIで小脳萎縮、脳幹萎縮を認める。
    [6]第3染色体短腕に遺伝子座をもつSCA7遺伝子内のCAGリピートに異常伸長を認める(34リピート以上)。
  • 3.常染色体劣性遺伝性の脊髄小脳変性症
  • A)Friedreich失調症
    [1]常染色体劣性遺伝を示す(したがって同胞の発病が多い)。
    [2]20歳以下の若年発病が多い。
    [3]主要症候は下肢優位の後索症候であり、腱反射は消失することが多い。
    [4]バビンスキー徴候、構音障害、知能障害、拡張型心筋症、足変形、脊柱側彎などが高率に見られる。
    [5]頭部のX線CTやMRIで脊髄の萎縮が認められる。軽度の小脳萎縮がみられることもある。
    付記
    1.病因遺伝子(frataxin 遺伝子)は、第9染色体長腕にあり、白人では、病因遺伝子(frataxin遺伝子)のイントロンに存在するGAA3塩基繰り返し配列の異常伸長が創始者変異としてよく知られている。そのほかに少数例では、点変異とGAA3塩基繰り返し配列の異常伸長をあわせ持つ例が知られている。
    2.わが国及びアジア系人種では、frataxin遺伝子の変異の証明されたFriedreich失調症はこれまでのところ報告されていない。むしろ、Friedreich失調症に類似の臨床像を呈し、低アルブミン血症や眼球運動失行を伴うもの(アプラタキシン欠損症)、あるいは,ビタミンE輸送蛋白の欠損によるものが多いと考えられる。これらの疾患の遺伝形式も常染色体劣性遺伝性である。

    B)ビタミンE単独欠乏性失調症
    [1]常染色体劣性遺伝を示す(したがって同胞の発病が多い)。
    [2]20歳以下の若年発病が多い。
    [3]主要症候はFriedreich失調症と同様で、運動失調と深部感覚障害。腱反射は消失し、Romberg徴候が陽性となる。約半数の例でBabinski徴候がみられる。この他に、表在覚障害、四肢の筋力低下、筋萎縮、網膜色素変性、凹足などがみられることがある。
    [5]血中ビタミンEの単独欠損、コレステロールと中性脂肪の高値が認められる。
    [6]X線CT、MRIでは小脳、脳幹の萎縮はみられない。脊髄の萎縮を認めることがある。
    付記
    1.ビタミンEを輸送する、アルファトコフェロール転移タンパク(アルファ-TTP)の欠損による。早期からのビタミンEの補充により、症状が改善する。

    C)アプラタキシン欠損症(EAOH/AOA1)
    [1]常染色体劣性遺伝を示す(したがって同胞の発病が多い)。
    [2]20歳以下の若年発病が多い。
    [3]幼年期は、失調症状(歩行障害)に加えて、不随意運動、眼球運動失行(衝動性眼球運動の開始の障害があり、視標に向けて最初に首を振るような動作が観察される)を認める。眼球運動失行は徐々に消失し、眼球運動制限が目立つようになる。10歳代から深部感覚障害を呈し、20歳代以降腱反射は消失し、筋萎縮、筋力低下も示す。
    [5]20歳代後半以降、低アルブミン血症、高コレステロール血症が認められるようになる。
    [6]X線CT、MRIでは小脳の萎縮を認める。
    付記
    1.新規蛋白アプラタキシン(APTX)の欠失によって生じる。本蛋白とDNA修復障害との関連が示唆されているが、光線過敏症や高率な悪性腫瘍の合併は報告されていない。
  • 4.遺伝性痙性対麻痺
  • [1]劣性遺伝の場合と優性遺伝の場合とがある。孤発例も少なからずみられ、やや若年に発病する。
    [2]主要症候は下肢優位の錐体路徴候で、痙性麻痺を呈する。
    [3]後索症状が見られることがある。その他、視神経萎縮、眼振、認知症など様々な症状を合併することがある。
    [4]頭部のX線CTやMRIでの異常所見に乏しい(ただし、稀に脳梁低形成をみる報告はある)。
    [5]脊髄腫瘍、多発性硬化症、頚椎症など症候性痙性対麻痺が除外できること。

    付記
    1.遺伝性痙性対麻痺を来す病因遺伝子は多数存在するものと考えられている。その中で、paraplegin、spastin、L1CAM、PLP (proteolipid protein)など、遺伝性痙性対麻痺を来す遺伝子が見いだされてきている。これらの病因遺伝子については遺伝子診断が可能であるが、病因遺伝子が未同定の疾患も数多く残されていると考えられる。
    2.運動失調は必ずしも前面に出ていないこともあるが、過去の病理学的検討から伝統的に脊髄小脳変性症に分類されているので、ここでもその分類を踏襲した。
  • 治療
  • 脊髄小脳変性症は、ビタミンE単独欠乏性運動失調症以外では有効な治療法が未だ発見されていないため、対症療法が中心になります。しかし、原因遺伝子は相次いで発見され、分子レベルでの病態機序も次第に明らかになっていますので、いずれは有効な治療法が開発されることでしょう。
  • 1.薬物治療
  • (1)小脳失調症状の改善
    甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)に小脳失調症状を改善する効果があり、まずTRHの注射薬(「プロチレリン酒石酸塩水和物注射液」)が開発され、2000年には内服薬の「タルチレリン水和物」が発売され、多くの脊髄小脳変性症の患者さんが使っています。プロチレリン酒石酸塩水和物注射液では、プロラクチン上昇などの副作用がみられる場合があり、注意する必要があります。

    (参照:松本英之、宇川義一『脊髄小脳変性症治療の現状と展望』『最新医学』2012.5、P.104-108、大和田潔『23.薬物治療』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.96-97)

    (2)錐体路徴候(痙性、つっぱり)の改善
    抗痙縮薬や筋弛緩薬が使われます。「チザニジン塩酸塩」、「エペリゾン塩酸塩」、「バクロフェン」、「アフロクアロン」、「ダントロレンナトリウム水和物」などが用いられます。量が多すぎると力が抜けてしまうので、注意します。

    また、皮下に埋め込んだポンプを使って「バクロフェン注射液」を髄腔内に投与する「バクロフェン持続髄腔内投与療法(ITB)」は、全身的な副作用を減らして、神経系への直接的な効果が期待できます。2006年4月から、注入ポンプ、薬剤、手術全てに保険が適用されるようになりました。

    (参照:大和田潔『23.薬物治療』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.98)、水澤英洋『22.痙性対麻痺』(同、P.94)、常深泰司、水澤英洋『最新の進展状況』「難病と在宅ケア」2009.4、P.10)

    (3)自律神経症状の改善
    [1]起立性低血圧(立ちくらみ)の改善
    血圧を上げる薬として昇圧剤が使われます。「メチル硫酸アメジニウム」、「塩酸ミドドリン」、「ドロキシドパ」、「メシル酸ジヒドロエルゴタミン」、「塩酸エチレフリン」、「酢酸フルドロコルチゾン」などが用いられます。

    (参照:大和田潔『23.薬物治療』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.97-98)

    [2]排尿障害の改善
    尿の失禁には「オキシブチニン塩酸塩」、「フラボキサート塩酸塩」、「プロピベリン塩酸塩」が、尿が出づらい時は「ジスチグミン臭化物」、「プラゾシン塩酸塩」、「タムスロシン塩酸塩」などが使われます。便秘には適宜、下剤や浣腸を用います。

    (参照:大和田潔『23.薬物治療』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.97-98)、常深泰司『20.代表的疾患5 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症』(同、P.87))

    (4)錐体外路徴候(パーキンソン症状)の改善
    脊髄小脳変性症の患者さんでパーキンソン症状が出ている方には、抗パーキンソン病治療薬を用います。パーキンソン症状は、神経細胞間で情報伝達をおこなっているドパミンが少なくなっておこります。「レボドパ複合剤」は脳内でドパミンに変化して、不足したドパミンを補います。ドパミンアゴニストはドパミンの受け皿を刺激します。MAO-B阻害薬はドパミンの分解を抑制します。また、ドパミン放出促進薬の「塩酸アマンタジン」には嚥下障害の改善の効果もあることから、誤嚥性肺炎の予防に使われることがあります。抗コリン薬はパーキンソン病によって活動が強くなっているアセチルコリンの活動を抑える薬で、ふるえに有効なことがあります。

    (参照:大和田潔『23.薬物治療』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.96-98、竹村学『パーキンソン正しい治療がわかる本』法研、2009、P.131-145)

    (5)不随意運動、てんかん発作の改善
    脊髄小脳変性症では自分が意識してもいないのに体が勝手に動く不随意運動やひきつけなどのてんかん発作、失神などの意識障害があらわれることがあります。医師と相談してそれぞれの症状にふさわしい薬を服用します。
    DRPLAのミオクローヌス性てんかんには抗てんかん薬の「クロナゼパム」、「バルプロ酸ナトリウム」、「ゾニサミド」が使われますが、てんかんを完全に止めることは難しいです。

    (参照:大和田潔『23.薬物治療』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.97-98、常深泰司『20.代表的疾患5 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症』(同、P.87))

    (6)ビタミンE単独欠乏性運動失調症の治療
    大量のビタミンE(1錠50mgの「トコフェロール酢酸エステル」錠剤を1日12~24錠)を服用することで、症状の進行は止まり、軽度ですが一部で症状の回復を期待できます。この服用は一生続けていかなければなりませんが、副作用はないと考えられています。もし、経口の投与で不十分な場合には、定期的に筋肉注射をおこなう必要があります。

    (参照:横田隆徳『21.代表的疾患6 Friedreich病ほか』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.91)
  • 2.運動治療
  • 小脳失調というのは、言い換えるなら体で覚えた動きの記憶がおかしくなることです。運動療法は、生活に必要な体の動きを患者さんの体に学び直してもらって、体の機能を少しでも長く使えるようにするためにおこなわれます。ですから、訓練がきつく感じられることがあっても決してやめないで続けて下さい。

    (1)起き上がり、寝返りの練習
    床から患者さんが起きようと体をおこそうと頭を上げると、足が同時にあがってしまうため起き上がれないことがあります。そこで横向きになった姿勢から起き上がる訓練をします。また、寝返りがうまくうてなくなった患者さんには、顎を引いて首を回しながら体全体の向きを直す動きを練習してもらいます。

    (2)座る練習
    座った姿勢で両足を持ち上げてバランスをとる訓練などをします。椅子から立ち上がる時には、膝をまげておじぎをするようにして立ち上がります

    (3)立ち上がりの練習
    手すりなどを使ってゆっくり、しっかりと立ち上がる訓練をします。膝や股関節をわずかに曲げた姿勢でバランスがとれるようにするのが目標です。もしできるのなら、四股を踏んでみるのもよいでしょう。

    (4)立っている練習
    まず、安定した姿勢で立つ練習をします。それから、そのまま目を閉じる練習や、足を閉じて姿勢を維持したりする練習へと進みます。

    (5)バランスの練習
    立ちながら重心を前後に動かします。ゆっくりとおこなってバランスを崩さないようにします。

    (6)歩行練習
    平行棒を使って歩く訓練をします。患者さんは遠近感を失っていることが多いので、杖は使わず、歩行器を使うようにします。

    (7)上肢の練習
    字が書きにくい方は字を書く練習を、箸使いができなくなって食事が不便なった方はスプーンなどの扱いなどの訓練をします。

    (8)しゃべる練習
    言葉がはっきり言えなくなった患者さんは、まずはゆっくりと短く区切って話す練習をします。もどかしい気持ちになりがちですが、あせらずじっくり辛抱強くやりましょう。

    (9)筋力増強訓練
    体を動かすためには筋力が必要です。筋肉のトレーニングも欠かさずおこないましょう。

    (参照:和田義明『29.各事例での症例検討』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.130、朝日達也『32.日常生活をしながら』(同、P.147-148))
  • 3.外科的治療
  • 神経縮小術
    遺伝性痙性対麻痺などで痙縮が非常に強い場合に、痙縮におちいった神経の太さを20~40%に縮小します。膝の屈曲痙縮に対しては、坐骨神経の大腿屈筋群枝の神経縮小術が、足首の内反尖足に対しては、選択的脛骨神経縮小術がおこなわれます。

    ※屈曲痙縮…筋肉が意思に反して過度に緊張して、肘や膝が曲がったままになることをいいます。(川崎病院脳神経外科 部長 國塩勝三氏による「脳卒中後遺症「痙縮(けいしゅく)」にたいする「選択的末梢神経縮小術」」(岡山日日新聞 平成19年4月2日(月)掲載)より)

    ※大腿屈筋群枝…坐骨神経は、腰の仙骨神経から出て、梨状筋(仙骨の筋肉)の前面を通り、大坐骨孔(梨状筋下孔)を通って骨盤外へ出ます。その後、太ももの後ろ(大殿筋と大腿二頭筋の前面)を下行し、大腿屈筋群(大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋)と大内転筋へ筋枝(筋肉を支配する神経)を分枝し、膝窩(膝の裏)のやや上方で2終枝(総腓骨神経と脛骨神経)に分かれます。(滋賀医科大学・小山なつ准教授「痛みと鎮痛の基礎知識」での「坐骨神経」の解説より http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/basic-spinaln.html)

    ※内反尖足…足の内側の筋肉の緊張(痙縮)が続いて、足の裏が内側にねじれた形になることをいいます。

    ※選択的脛骨神経縮小術…脛骨神経のうち、電気刺激によって痙縮に関与している運動神経のみを選び出し、これを縮小します。こうすると、知覚に関する神経や筋力には影響が及びません。(東京女子医科大学脳神経センタ-脳神経外科 平 孝臣先生の「痙縮に対する脳神経外科的治療」)

    後根侵入部遮断術
    痙縮は大脳からの命令ではなく、脊髄からの「反射」(例えば、膝下をハンマーで叩くと足がポンと上がりますが、これも反射です)によっておこります。もし、この脊髄からの有害な命令が下肢に伝わらなければ、痙縮はおこりません。そこで、この命令ができるだけ伝わらないように、その命令に関与している神経を50から60%切って縮小するのが、「後根侵入部遮断術」です。脊髄の後面からは後根と呼ばれる神経線維の束が出ており、末梢からの感覚情報がここを通じて脊髄に入ります。後根の侵入部では触覚などを伝える線維は内側に、痛みなどを伝える線維は外側にあるため、この外側の痛みと筋を伸ばす線維だけを狙って切ると、触覚などを保ったまま、痛みと痙縮を取り除くことができます。(東京女子医科大学脳神経センタ-脳神経外科 平 孝臣先生の「痙縮に対する脳神経外科的治療」並びに滋賀医科大学・小山なつ准教授「痛みと鎮痛の基礎知識」での「脊髄後根進入部遮断術」の解説より http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/analg-bl-surg.html)

    (参照:水澤英洋『22.痙性対麻痺』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.94)
  • 経過・予後
  • 脊髄小脳変性症の中には多系統萎縮症に分類されるオリーブ橋小脳萎縮症のように進行が早い疾患もあれば、皮質性小脳萎縮症や脊髄小脳失調症6型のように進行が遅く、寿命をまっとうできるものもあります。また、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症のように世代があとになるほど発症年齢が若くなる遺伝性の疾患もあります。ですから、病型ごと、患者さんごとで予後は大きくかわります。また、転倒をきっかけに寝たきりになる患者さんも少なくないので、転倒防止のために運動療法をおこなったり、家周りの工夫、改良をおこなうことも、予後の改善につながります。

    (参照:『難病の診断と治療方針1改定版』疾病対策研究会 2003、P.157)
  • ケア
  • 脊髄小脳変性症は運動失調を伴う疾患ですので、病状が進行にするにつれて患者さんの体の自由がきかなくなります。患者さんは熱心にリハビリに取り組み、現在の症状が悪化しないように心がけましょう。また、病気の進行に伴って転倒しやすくなりますが、骨折にはくれぐれもご注意下さい。頭部への打撲が軽くなるように、室内でも帽子などを被るとよいでしょう。

    また、喉の筋肉が弱まったり、こわばったりして、食べ物や飲み物を口から食堂へスムーズに送りにくくなる嚥下障害があらわれます。そのような患者さんには、柔らかく、喉越しのよい大きさに切った食事を出してあげて下さい。また、アルコールやたばこは神経の働きに悪い影響を与えますので、控えましょう。

    言葉の障害が進んで会話ができなくなった患者さんとは、身振りや筆談や文字盤、メールなどを使ってコミュニケーションをとるようにしましょう。また、患者さんは寝たきりになっても大脳の働きは正常であることが多いので、ストレス解消のために、好きな音楽やラジオを勧めてみてはいかがでしょうか。
  • 検査
  • 1.画像検査
    脳をMRIで撮影する場合、T1強調画像とT2強調画像の2通りの撮影方法で撮ります。T1は脳の輪郭がはっきり出るため、脳の萎縮をこれで調べます。T2は内部の変化がよくわかるので、神経の変性を調べるのに使います。

    2.神経耳科学的検査
    耳の鼓膜の先にある三半器官を含む前庭器官では、頭の位置や動きが認識されます。前庭器官から脳幹を通り目の動きに関係する神経細胞に至る経路の途中、もしくは小脳に異常が生じると、眼の動きに異常が出てきます。この眼の動きを調べることによって、小脳や脳幹の状態を知ることができます。

    (1)注視眼振、自発眼振、頭位眼振の検査
    前庭、脳幹、小脳に障害があると、眼の位置が定まらなくなります(眼振)。これを観察するために、患者さんの眼の周囲の上下左右に電極を貼って、眼の動きによって生じる電位変化を記録します(これを「眼振計」といいます)。

    注視眼振の検査ではこの状態で、上下左右にある指標を注視してもらい、その時の眼の動きを記録します。注視眼振では、例えば左の指標を凝視していると、眼が左に鋭く振れて(急速相)指標をとらえた後、右へゆっくりと振れます(緩徐相)。

    また、「フレンツェル眼鏡」という強い凸レンズの特殊な眼鏡をかけて指標を見るとぼやけて見えるため、この状態であらわれた眼振を「自発眼振」といいます。これも眼振計で記録します。
    この眼鏡をかけたまま仰向けに寝た状態などで頭を左右にひねって眼振がでるか検査します。これを「頭位眼振検査」といいます。

    (2)温度眼振検査
    鼓膜に穴があいてないのを確認してから仰向けで軽く頭を上げた状態で、片方の耳に5~20mLの冷水もしくは温水を入れます。これによって前庭器官にあるリンパ液が対流を起こし、眼が回った感じがして眼振がおこります。脳幹や小脳の片葉に障害があると、ものをじっと見ても温度眼振の抑制が起こりにくくなるといわれています。

    (3)追跡眼球運動検査
    スクリーンに映った光の点を眼で追い、眼振計で記録します。光は素早く動いたり、なめらかに動いたりしますが、前者で「衝撃性眼球運動」の、後者で「滑動性眼球運動」の様子を調べます。SCDの患者さんの場合、点を一発で捉えられず、手前で止まったり、やり過ごしたりします。

    (4)視運動眼振検査
    内側に縦じま模様の入った筒の中に椅子を置いて(一例)、そこに被験者を座らせて筒を回転させて眼の前を通り過ぎる縦の線の動きを眼で追ってもらいます。正常な人なら眼振が起こりますが、脳幹や小脳に異常があると眼振が出にくくなります。

    (5)脳幹聴性誘発電位(聴性脳反応)
    BAEPもしくはABRともいいます。うるさい機械的な音をヘッドホンで繰り返し聴き、耳たぶと頭のてっぺんにある電極で記録します。1000分の6秒の間に5つの頂点を持った反応が記録されれば正常です。脳幹部異常があると反応の遅れや消失がみられます。
  • 3.自律神経機能検査
  • (1)心臓・血管系自律神経機能検査
  • [1]体位変換試験
    起立性低血圧(立ちくらみ)の検査です。仰向けに10分以上横になったあとで、血圧を2~3回、1~2分おきに測定して血圧の安定を確認したのちに、素早く立ち上がってもらい、立った状態で血圧を10分間1分おきに測定します。これを起立試験(シェロング試験)といいます。
    立ちくらみがあり、収縮期血圧(最高血圧)が20-30mmHg以上低下した場合に、起立性低血圧と認めます。

    ヘッドアップチルトテストは、患者さんを特殊な台(チルトテーブル)の上に寝かせて、自動的に台を傾斜させて血圧の変化を測定します。こちらの方が厳密なデータがとれます。

    [2]ブドウ糖負荷試験
    食事をした後、立ちくらみなどの低血圧症状があらわれることを食事性低血圧といい、多系統萎縮症など自律神経障害が強い患者さんの中にみられることがあります。食後、厳密な検査の場合はブドウ糖液を飲んだ後、食事前から5分おきに食後2時間ぐらいまで血圧を測ります。収縮期血圧が20mmHg以上の低下で、食事性低血圧と認めます。

    [3]心電図R-R間隔検査
    心電図を100~200拍記録し、個々の波形の最も高いピーク(R波)の間隔を測定し、ばらつきを計算したものを「心電図R-R間隔」といいます。自律神経障害で副交感神経が障害されると、ばらつきがなくなります。

    [4]寒冷昇圧検査
    安静に横になった後、片方の手を氷水に浸し、もう一方の腕で血圧と脈拍の変化を調べます。冷たい刺激で交感神経の緊張がおきて、手足の血管が収縮するはずなので、正常なら血圧が10-20mmHgほど上昇します。自律神経に異常があると血圧の上昇はありません。
  • (2)発汗機能検査
  • 発汗を調整する自律神経(交感神経)に異常がおこると汗をかかなくなります。

    [1]温熱発汗試験
    全身にヨードを含むミノール液を塗り、乾いたらその上にカタクリ粉をまぶします。その後、温かい部屋に入り、汗が出るのを待ちます。汗が出たところは黒く変色しますが、正常な方は手のひらと足の裏を除いて均一に黒くなりますが、自律神経の障害のある場所は汗をかかないので変色しません。尚、発汗量をはかるために小さな測定用のカップを皮膚の上に貼り付けるカプセル換気法も開発されています。

    [2]交感神経皮膚反応
    精神性発汗の有無を調べます。深呼吸や大きな音に対して出る手のひらや足の裏の汗を、電極を使って電気信号として取り出します。
  • (3)膀胱機能検査
  • 自律神経は尿の膀胱への蓄積とそこからの排出にかかわっており、それが障害されると尿閉、尿失禁、残尿がおこります。

    [1]尿流測定(ウロフローメトリー検査)
    自然に尿を貯めた状態で尿を出してもらい、そのスピードを計ります。正常な場合、男性は毎秒15cc以上、女性は20cc以上、排尿時間30~40秒です。また、時として排尿後カテーテルを膀胱に入れて残尿量をはかることがあります。排尿に障害があると、尿が膀胱に残り、膀胱炎や腎臓機能の低下につながることがあります。

    [2]膀胱内圧測定(シストメトリー検査)
    カテーテルを膀胱に入れ、水を徐々に注入していくと通常は内圧が上がらないようにふくらんでいき、一定量に達すると尿意をおぼえます。自律神経に障害があると、水が少量であっても膀胱が収縮して内圧が上がったり、逆に水をいくら入れても尿意がなかったりします。
  • (4)瞳孔検査
  • 瞳孔の大きさは自律神経で調整されていて、瞳孔は交感神経の活動で大きくなり、副交感神経の働きで小さくなります。自律神経を興奮させる薬を点眼して、瞳孔を観察することにより、自律神経の障害の有無や強さを知ることができます。
  • 4.動作分析
  • (1)重心動揺計
    患者さんがセンサーのついた台の上にのると、体のふらつきを検知して記録します。失調症状などでふらつきが大きいと、重心の移動距離の増加として記録されます。

    (2)3次元動作分析装置
    体に装着した目印に赤外線や光を当てて、その反射をとらえることによって体の各部分の動きを記録します。各部の位置を毎秒60回測定して、運動の速度や加速度を計算します。関節の動きも角度で測ることができます。

    (3)床反力計
    歩いている時に床を踏みしめる力の大きさと向きを測ることで、全身の筋肉の働きを知ることができます。

    (4)筋電図
    ある動作をしている時に、対になっている伸びていく筋と縮んでいく筋の筋電図を測ることによって、これらの筋の協調度合いを知ることができます。
  • 5.遺伝子検査
  • 遺伝子検査で正確な病型がわかれば、今後の治療や合併症に対して有効な対策を立てることができるようになります。ただし、遺伝性の疾患が確定することで、患者さんのご家族にも同様な疾患があらわれる可能性が生まれますので、その方たちの将来の問題(結婚、出産)にも影響を与えることになります。ですから、遺伝子検査は慎重におこなわれます。

    検査をおこなう前には、患者さんだけではなく、ご家族にも医師から十分な説明がおこなわれ、最終的には患者さんのご意思で、検査を受けるかどうか決めます。
    検査確定後は、ご家族を含めてカウンセリングが重要となります。

    (参照:袖山信幸『7.検査1:画像検査』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.37)、叶内匡『8.検査2:神経耳科学的検査』(同、P.41-44)、稲葉彰『9.検査3:自律神経機能検査』(同、P.45-49)、家永貴夫『10.検査4:自律神経機能検査』(同、P.50-51)、石川欣也『11.検査5:遺伝子検査 その他』(同、P.54))
  • 6.各疾患の鑑別のポイント
  • 皮質性小脳萎縮症
    皮質性小脳萎縮症を鑑別するにあたっては、外傷や腫瘍、飲酒、感染、炎症、脳血管障害、薬品中毒、他の疾患に罹っている場合を除きます。また、「脊髄小脳失調症6型」(SCA6)、「第16番染色体に連鎖する脊髄小脳失調症」など高齢で発症する遺伝性SCDがあり、これも遺伝子検査を用いて鑑別されます。同じ孤発性のオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)でもやはり症状が小脳からはじまりますが、こちらはやがてパーキンソン症状があらわれますので、その初期と見誤ることがないように注意しなければなりません。

    (参照:融衆太『17.代表的疾患2 孤発性の純粋小脳失調症』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.75-76)

    マシャド・ジョセフ病(MJD、SCA3)
    MRIなどの画像診断では、小脳皮質の萎縮は軽いものの、脳幹の萎縮や第4脳室の拡大がみられます。

    ※第4脳室…胎内での発生の途上、菱脳からできます。橋と延髄の背後、小脳の前方に挟まれるように位置しています。第3脳室とは中脳水道で、脊髄とは中心管で、クモ膜下腔とは第4脳室外側口(ルシュカ孔)と第4脳室正中口(マジャンディ孔)でつながっていて、中は髄液で満たされています(慶應義塾大学医学部解剖学教室・船戸和弥先生による「40:Ventriculus quartus(第四脳室)Fourth ventricle」の解説よりhttp://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/anatomy/brainstem/brainstem-i.html)。

    (参照:和田義明『29.各事例での症例検討』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.130)

    脊髄小脳失調症6型(SCA6)
    MRIなどの画像診断では、小脳の虫部から上面にかけて萎縮が認められます。ただ、アルコール小脳萎縮症などでも小脳萎縮がみられるので、この疾患は最終的には遺伝子診断で確定します。
    ※虫部…小脳は、片葉、虫部、小脳半球の順に分かれていて、虫部は体幹や足から様々な感覚を受けて体の姿勢を制御しています。

    (参照:冨満弘之『18.代表的疾患3 遺伝性純粋小脳失調症-SCA6その他-』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.79-80)
    DRPLA(歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症)
    診断はまず神経内科でおこなわれます。若い患者さんで進行性ミオクローヌス性てんかんの症状を示している場合には、ミトコンドリア病、Lalofa病、Neuronal Ceroid Lipofuscinosis、Sialidosis、Unverricht-Lundborg病と鑑別します。高齢の患者さんで小脳失調や認知症が見られる時には、遺伝性脊髄小脳変性症、ハンチントン舞踏病、アルツハイマー病、認知症と鑑別します。

    MRIや脳CTなどの画像所見では、第3脳室が拡大する一方で小脳が萎縮し、被蓋部特に脳幹で著しい萎縮が見え、中脳水道が広がり、側脳室が拡大する一方で大脳白質が萎縮したり、大脳白質に広範な異常があらわれたりします。ハンチントン舞踏病とは尾状核頭部に萎縮がないことで鑑別できます。髄液検査の結果では、髄液は正常となります。また、ミオクローヌス性てんかんの症状を示す場合、脳波検査で、棘徐波複合、多棘波複合などのてんかん性波形や突発性徐波が、あらわれます。更に遺伝子検査をおこなうことで、診断は確定します。この時、DRPLA遺伝子でのCAG反復配列の数を調べますが、異常の有無ばかりではなく、発症年齢や重症度、病型などを予測することができます。
    ※ミトコンドリア病…ミトコンドリア脳筋症が正式名称で、人の細胞の中でエネルギーを作り出しているミトコンドリアという器官に異常が発生して、大量のエネルギーを必要とする骨格の筋肉や中枢神経系に異常があらわれる疾患をいいます。(南山堂医学大辞典19版「ミトコンドリア脳筋症」)

    ※Lalofa病…ミオクローヌスてんかんの別名です。(家庭の医学「ミオクローヌスてんかん」の項よりhttp://www14.plala.or.jp/kateinoigaku/15e-shinkei.html)

    ※Neuronal Ceroid Lipofuscinosis…神経セロイドリポフスチン症。小児期に進行性の神経変性が起こる重篤な疾患で、酵素活性測定および遺伝子解析によって鑑別されます。(鳥取大学医学部「分野での主要な研究テーマとその取り組みについて」の説明から「g.神経セロイドリポフスチン症の分子生物学的診断に関する研究」の解説を参照 http://www.med.tottori-u.ac.jp/nousho/5988.html)

    ※Sialidosis…シアリドーシス。シアリダーゼという酵素が欠損することによって起こる疾患で、網膜のチェリーレッド斑、視力障害、白内障、ミオクローヌス、歩行障害がみられます。(難病情報センター「ライソゾーム」病の「シアリドーシス」の解説より http://www.nanbyou.or.jp/sikkan/117_i.htm)

    ※Unverricht-Lundborg病…ウンフェルリヒト(Unverricht H,1895)とルンボルグ(Lundborg H, 1903)が報告した進行性家族性変性疾患(ミオクローヌスてんかん)をいいます。(家庭の医学「ミオクローヌスてんかん」の項より http://www14.plala.or.jp/kateinoigaku/15e-shinkei.html)

    ※ハンチントン舞踏病…遺伝性の神経変性疾患で単純優性遺伝の形式をとります。30歳代から40歳代に発症して、舞踏病のような不随意運動の他に認知症や人格障害がみられます。ハンチントン病ともいいます。(南山堂医学大辞典19版「ハンチントン病」)

    ※第3脳室…左右の間脳の間にあります。側脳室とは室間孔(モンロー孔)で、第4脳室とは中脳水道でつながっていて、中は髄液で満たされています。(慶應義塾大学医学部解剖学教室・船戸和弥先生による「20.Ventriculus tertius(第三脳室)Third ventricle」の解説よりhttp://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/anatomy/brain_mri/figo.html)

    ※被蓋…中脳の真ん中に中脳水道という脊髄の液が通る管が貫いていて、この中脳水道を中心に体の背中側の部分を蓋板といいます。腹側の部分は更に2つに分かれ、中脳水道寄りにある部分を被蓋、反対に腹寄りにある部分を大脳脚といいます。(慶應義塾大学医学部解剖学教室・船戸和弥先生による「(三)Mesencephalon(中脳)Mesencephalon, Midbrain」の解説よりhttp://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/anatomy/Textbook/anatomy16b-1-2-3.html)

    ※中脳水道…間脳の第3脳室と菱脳の第4脳室とを結ぶ管で髄液が中を通ります。フランスの解剖学者シルビウス (1478-1555)の著書で初めて説明がされたことから、シルビウス水道ともよばれます。(慶應義塾大学医学部解剖学教室・船戸和弥先生による「21.Aqueductus mesencephali; Aqueductus cerebri(中脳水道)Aqueduct of midbrain; Cerebral aqueduct」の解説よりhttp://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/anatomy/brain_mri/figo.html)

    ※側脳室…側脳室は左右の大脳半球の中にそれぞれあって、その中は髄液で満たされています。左右の側脳室には室間孔(モンロー孔)という第3脳室への連絡孔があり、髄液はそこから第3脳室へと流れていきます。(慶應義塾大学医学部解剖学教室・船戸和弥先生による「1. Ventriculus lateralis(側脳室)Lateral ventricle」の解説よりhttp://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/anatomy/cerebrum/cerebru07g.html)

    ※大脳白質…大脳の表面にある灰白質(大脳皮質)に対して、深部の大脳髄質を白質といいます。人の大脳半球には100億以上の神経細胞があり、皮質には部位や機能に応じた細胞体が作られ、その細胞体からの線維が白質を形作っています。(南山堂医学大辞典19版「大脳」)

    ※尾状核頭…大脳の底には大脳基底核があります。大脳基底核は大脳から体を動かすのに必要な幅広い情報(体を動かせという直接的な命令の他に視覚・聴覚・触覚などの感覚情報、位置や計算などの認知情報など)を受け取り、処理して、前頭葉へと送ります。運動命令は最終的には前頭葉から脊髄へ出されます。大脳基底核は、線条体、淡蒼球、黒質、視床下核の4つの神経核からなり、線条体は大脳からの情報の受け取りを担当しています。この線条体は、更に被殻と尾状核に分かれます。尾状核は頭を前に、尾を後下方に曲げたオタマジャクシのような形をしていて、前のふくらんだ部分を頭、後下方の細長くなった部分を尾といいます。(慶應義塾大学医学部解剖学教室・船戸和弥先生による「3. Nucleus caudatus、尾状核、Caudate nucleus」の解説、並びに東京都神経科学総合研究所の「大脳基底核」の解説より  http://tmin.igakuken.or.jp/medical/01/parkinson4.html)

    ※棘徐波複合…脳波検査で、波形が尖った波が20~70ms続くものを棘波といいます。また、正常な成人の方が目を閉じて安静にしている状態でよくみられる波をアルファ波(周波数8~13Hzの波)といい、これよりも周波数が低い波を徐波といいます。徐波は、幼小児の脳波や成人が眠っている時の脳波にあらわれます。棘徐波複合では棘波のすぐ後に高い振幅の徐波が現れ、1つのまとまったパターンとなります。(奈良県臨床衛生検査技師会「脳波の手習いシリーズ・脳波判読正常編」 http://naraamt.or.jp/Academic/kensyuukai/2005/kirei/nouha_normal/nouha_normal.html、並びに「脳波の手習いシリーズ・異常波形編」より http://naraamt.or.jp/Academic/kensyuukai/2005/kirei/nouha_ijyou/nouha_ijyou.html)

    ※多棘波複合…棘波だけが2個以上続くものをいいます。(奈良県臨床衛生検査技師会「脳波の手習いシリーズ・異常波形編」より http://naraamt.or.jp/Academic/kensyuukai/2005/kirei/nouha_ijyou/nouha_ijyou.html)

    ※突発性徐波…脳機能に障害がある時には、突発的な徐波がみられることがあります。(奈良県臨床衛生検査技師会「脳波の手習いシリーズ・脳波判読正常編」より http://naraamt.or.jp/Academic/kensyuukai/2005/kirei/nouha_normal/nouha_normal.html)
    ※CAG反復配列…DNA上で、シトシン(C)、アデニン(A)、グアニン(G)の3つが連なった塩基配列が繰り返されることをいいます。

    (参照:常深泰司『20.代表的疾患5 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.85、86)
    アプラタキシン欠損症
    血液検査ではアルブミン値の低下とコレステロール値の増加がみられます。MRI、CTなどの画像検査では、小脳にあきらかな萎縮がみられます。末梢神経伝導検査という電気の検査では、電気が末梢神経に伝わる速度が低下します。更に遺伝子検査でアプラタキシン遺伝子に異常が見つかれば、診断は確定します。

    ※アルブミン値の低下…アルブミンは血清中にあるタンパクで、物質の運搬や血液の浸透圧の調整にかかわっています。アプラタキシン欠損症では血清中のアルブミンの濃度が低下する低アルブミン血症がみられます。
    ※アプラタキシン遺伝子…アプラタキシンタンパクを作る遺伝子で、アプラタキシンタンパクは342のアミノ酸からなり、細胞の核に存在しています。酸化のストレスによってDNAの1本の鎖が切断、損傷した時にこれを修復する働きを担っていると考えられています。(新潟大学脳研究所神経内科の研究紹介「アプラタキシン・TDP-43関連の研究」より「1. 眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早期発症型失調症」の項を参照 http://www.bri.niigata-u.ac.jp/~neuroweb/laboratory/research_basic_002.html)

    (参照:横田隆徳『21.代表的疾患6 Friedreich病ほか』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.91および、佐藤達哉、他田正義、小野寺理『末梢神経疾患 2.眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早期発症型脊髄小脳失調症』「Annual Review神経」Vol.2009、2009、P.226-232)

    ビタミンE単独欠乏性運動失調症(AVED)
    AVEDの検査は採血して血中のビタミンEの値を調べれば、診断がつきます。他の脂溶性のビタミンであるAやDの値は正常なのに、Eの値は正常値下限の値の5分の1以下になります。尚、正しい数値をはかるために、検査の3週間位前からビタミンE製剤やサプリメントを飲むのは止めます。画像検査では他の脊髄小脳変性症の疾患とは異なり、小脳や脳幹の萎縮はみられません。一方、体性感覚誘発電位(SEP)という脳波検査の1種では、ほとんど全ての患者さんで脊髄の動きの異常が見つかります。

    ※体性感覚誘発電位…上肢または下肢にある感覚神経に電気的、機械的な刺激を与えることであらわれる電位をいいます。大脳皮質から末梢神経に至る神経路の機能障害を探す際などに使われます。(岡山大学病院 検査部/輸血部インフォメーション「脳神経生理検査」の「体性感覚誘発電位」の項より http://www.okayama-u.ac.jp/user/hos/kensa/nou/SEP.htm)

    (参照:横田隆徳『21.代表的疾患6 Friedreich病ほか』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.89-90)

    遺伝性痙性対麻痺
    この疾患の臨床検査は、錐体路徴候をあらわす他の疾患との鑑別や現在の病状の評価にポイントが置かれます。
    尿、血液、便の一般検査では、異常があらわれません。脳髄液検査も異常が出ないので、異常が出る多発性硬化症、脊髄炎などの免疫性疾患との鑑別ができます。画像検査では胸髄を中心に萎縮性変化がみられる可能性があります。しかし、胸髄は小さく、脊髄の大きさにも個人差があることから、患者さんを判定するにはあまり利用できないかもしれません。ただ、腫瘍、多発性硬化症、脊髄炎、脊椎症などの鑑別には画像検査が必要です。神経生理検査では運動誘発電位検査(MEP)が両側錐体路の病変を検出するのに役立ちます。また、体性感覚誘発電位、神経伝導速度、針筋電図などでの検査で、感覚神経障害、末梢神経障害、下位運動ニューロン障害を調べます。精神症状や認知症が伴う場合には、SPECTやPETで脳内の血流やブドウ糖代謝に変化があらわれます。

    ※錐体路徴候…延髄の錐体を通る運動神経線維の経路を錐体路といい、その障害で起こる症状を錐体路徴候といいます。随意運動の麻痺、筋力低下、痙縮、手先や足先の細かい動きが悪くなるなどの症状がみられます。(南山堂医学大辞典19版「錐体路徴候」)

    ※胸髄…脊髄の中で、12対の胸神経が出る部分を胸髄といいます。(慶應義塾大学医学部解剖学教室・船戸和弥先生による「脊髄(胸部)」の解説より)

    ※脊髄炎…感染や自己免疫、薬物、血管炎などで、脊髄の灰白質(神経細胞の細胞体がある部分)や白質(神経線維のみの部分)が炎症をおこすことをいいます。(メルクマニュアル18版「急性横断性脊髄炎」より http://merckmanual.jp/mmpej/sec16/ch224/ch224b.html)

    ※脊椎症…加齢や負荷によって脊椎の関節が変形し、脊髄を圧迫することによって、手足の痙性不全麻痺や感覚障害などがあらわれることがあります。これを脊椎症といいます。(メルクマニュアル18版「頸椎症および脊椎症性頸髄症」より http://merckmanual.jp/mmpej/sec16/ch224/ch224d.html)

    ※運動誘発電位検査…脳を磁気で刺激して筋電図を記録します。
    ※両側錐体路…左脳、右脳から発したそれぞれの錐体路は延髄で交差し、左脳からの錐体路は右足の末梢へ、右脳からの錐体路は左足の末梢へと向かいます。この両側の錐体路を両側錐体路といいます。(南山堂医学大辞典19版「錐体路」)

    ※体性感覚誘発電位…上肢または下肢にある感覚神経に電気的、機械的な刺激を与えることであらわれる電位をいいます。大脳皮質から末梢神経に至る神経路の機能障害を探す際などに使われます。(岡山大学病院 検査部/輸血部インフォメーション「脳神経生理検査」の「体性感覚誘発電位」の項より http://www.okayama-u.ac.jp/user/hos/kensa/nou/SEP.htm)

    ※神経伝導速度…手や足の神経を刺激して、刺激の伝わる速さ(伝導速度)を測り、神経障害の程度を調べます。筋肉の活動電位から伝導速度を求める運動神経伝導速度と、誘発された神経電位を測定して得られる知覚神経伝導速度があります。(岡山大学病院 検査部/輸血部インフォメーション「脳神経生理検査」の「神経伝導速度」の項より http://www.okayama-u.ac.jp/user/hos/kensa/nou/NCV.htm)

    ※針筋電図…長さ5㎝くらいの細い電極針を筋肉内に刺して、筋電図を測定します。これにより、疾患が筋肉そのものによるものか、それとも筋肉を動かしている神経によるものなのかを判別できます。また、障害を受けている場所やその程度も知ることができます。(東京女子医科大学中央検査部「針筋電図」の解説より http://www.twmu.ac.jp/info-twmu/clabo/room/seiri/S_kensa3-06.html)

    ※下位運動ニューロン障害…大脳皮質から末梢部に至る神経経路のうち、脊髄前角細胞から末梢部の間でおこる障害をいいます。

    ※SPECT…アイソトープを体に投与して断層撮影する検査をいいます。

    ※PET…標識をつけたブドウ糖に似た物質を体の中に入れ、陽電子放射断層撮影装置で代謝の様子を観察します。

    (参照:水澤英洋『22.痙性対麻痺』「脊髄小脳変性症のすべて」日本プランニングセンター、2006、P.92-94)
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