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10月19日(金)
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疾患

  • 定義・概念
  • 多発性嚢胞腎(PKD)には常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)と常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)があります。両疾患は発生のメカニズムで共通した点もありますが、臨床的には全く異なったものであり、ここでは頻度の多いADPKDについて述べます。以下、「疾患」の項では、ADPKDを多発性嚢胞腎と略します。多発性嚢胞腎は両側の腎臓に嚢胞(のうほう、分泌液がたまって球形の袋状態になったもの)が無数に生じる遺伝性の疾患です。嚢胞が増加、増大するにつれて腎機能が低下していき、約半数の患者は70歳までに血液透析が必要な慢性腎不全となります。
    多発性嚢胞腎は遺伝性疾患で、常染色体優性遺伝をします。両親の片方が多発性嚢胞腎に罹患している場合、子供の50%に男女の区別なく多発性嚢胞腎が遺伝します。ADPKDは更に原因となる遺伝子の型でPKD1、PKD2に分かれます。

    多発性嚢胞腎(ADPKD)に関しては、この数年で病態解明が進み、臨床治験なども始まり、治療法が拡がっています。
  • 疫学
  • PKD1遺伝子による患者さんは75~85%、残りがPKD2遺伝子による患者さんです。
    罹患率を正確に調べることは困難ですが、病院での死亡者を病理解剖した結果では、多発性嚢胞腎患者さんは300~500人に1人の割合で見出されたという報告があります。

    医療機関を受療している多発性嚢胞腎患者さんは、日本の総人口の4000人につき1人の割合だという調査結果があります。イギリス南部地方(ウエールズ)やポルトガルでも同じ方法(病院受療者数を地域人口で割ったもの)で調査した結果では、人口2000~3000人に1人の割合です。欧米では、1000人に1人の頻度で多発性嚢胞腎患者がいるとされていますが、厳密な調査結果に基づいたものではありません。明確な治療方法がなかった状態では、かなりの多発性嚢胞腎の患者さんが一生涯、病院を受診していない可能性があります。治療方法が開発されたので、徐々に病院を受領する患者さんが増加し、病院受療者を基に調査する罹患率は高くなる可能性があります。
    (参照:杏林大学:多発性嚢胞腎研究講座)

    ※終末期腎不全…腎機能の低下によって透析を受けなければならなくなった腎不全をいいます。

    (参照:『難病の診断と治療方針2改訂版』疾病対策研究会、P.579、厚生労働省特定疾患対策研究事業 進行性腎障害調査研究班『常染色体優性多発性嚢胞腎診療ガイドライン(第2版)』、2006、杏林大学医学部付属病院泌尿器科学教室『多発性嚢胞腎の説明』ページ(http://www.kyorin-u.ac.jp/univ/user/medicine/urology/sick/tahatu/1/))
  • 成因
  • 多発性嚢胞腎の原因は最近の研究によってかなり明らかになってきました。

    発症の原因遺伝子
    多発性嚢胞腎嚢胞腎は、第16番の染色体の短腕上に確認されているPKD1遺伝子、または第4番の染色体の長腕上に確認されているPKD2遺伝子の異常によって発症します。
    PKD1遺伝子はポリシスチン1(PC1)という蛋白を、PKD2遺伝子はポリシスチン2(PC2)という蛋白をつくる遺伝子です。

    嚢胞細胞内のCa濃度を低下させるPC1とPC2の機能異常
    PC1とPC2は、尿細管細胞の管腔側に面して存在している繊毛の細胞膜上に、複合体を形成して存在しています。PC1は尿細管液の流れを感知するセンサーとして働き、PC2はカルシウムイオンチャネルとして働き、両蛋白が協調して、細胞内へのカルシウム(Ca)流入を調節していると考えられています。
    PKD1遺伝子またはPKD2遺伝子に異常があり、PC1またはPC2の機能異常が起こると、細胞内へのカルシウム流入が適切に行われなくなり、多発性嚢胞腎の嚢胞細胞内のカルシウム濃度が低下します。

    嚢胞細胞を増大させる、cAMPを介した細胞機能異常
    サイクリックAMP (cAMP)によって増えたPKA(プロテイン・カイネースA)が嚢胞を増大させます。
    その機序は以下のとおりです。
    cAMPは、副甲状腺ホルモン、抗利尿ホルモン、プロスタグランディン、グルカゴン、アドレナリンなどといった、細胞外に存在するホルモンの刺激を細胞膜にあるホルモン受容体で受け、その刺激を細胞内に伝達する役割を担っています。
    多発性嚢胞腎患者では、抗利尿ホルモンによって、cAMPを産生するアデニールサイクラーゼ活性が刺激され、細胞内のcAMP濃度が高まります。また、多発性嚢胞腎の嚢胞細胞ではカルシウム濃度が低いため、cAMPを分解するホスホディエステラーゼ(PDE)の作用が低下し、cAMPを産生するアデニールサイクラーゼ活性が高まり、これも嚢胞内のcAMP濃度を高めます。
    こうしてcAMP濃度が高くなると、PKA(プロテイン・カイネースA)が増えます。PKAは
    1)細胞平面極性(尿細管細胞がチューブ状に並ぶように分裂すること)の乱れを引き起こし、嚢胞を形成するのを促進します。
    2)種々の刺激伝達系を介して嚢胞細胞増殖を促進します。
    3)嚢胞液を嚢胞内に分泌するポンプ(CFTR)を刺激して嚢胞液を増やします。
    このようにPKAは嚢胞細胞を増大させます。
    上記の2)や3)など嚢胞細胞が増殖する過程を抑制するいくつかの薬剤の臨床試験が行われましたが、個々の過程を抑制する薬剤よりもcAMPやPKAを増やさないようにする薬剤のほうが治療効果が高いと考えられるため、治療戦略の中心的位置を占めていくと思われます。cAMPやPKAを増やさないようにする薬剤としては、トルバプタンやソマトスタチン・アゴニストがあり、その内、抗利尿ホルモンを阻害するトルバプタンが、日本では2014年4月に、多発性嚢胞腎に対する使用が許可されました。

    cAMPを介さない、嚢胞細胞増殖
    PC1とPC2の機能異状によって、cAMPやPKAとは直接関係しない経路で、細胞増殖を制御する蛋白質の活性異常が起き、細胞増殖が刺激される事が報告されています。従ってcAMPやPKA抑制と共に、今後、この経路も治療方法開発の対象になる可能性があります。



    ※細胞外マトリックス…細胞外の空間を充填する物質で、コラーゲンが代表的です。
    ※細胞内小器官…細胞の中にある細胞膜に囲まれた構造体をいい、ミトコンドリアや小胞体などがよく知られています。
    ※イオンチャネル…膜の内外でのイオンのやりとりや電位差の維持、変化に関与するタンパクのことです。
    ※集合管…腎臓の糸球体で濾過された濾過液は、尿細管の中を流れる間に、溶液の組成に修飾を加えられます。尿細管の最後の部分が集合管です。集合管はいくつかの集合管が集まりながら最後に腎盂・腎杯に尿細管液を排出します。腎杯にたまった尿細管液は尿と呼ばれます。集合管上皮細胞は、抗利尿ホルモンの作用を受けて、水の透過性が変わります。
    ※腎盂…腎臓と尿管が接続する部分にあって、集合管からきた尿を漏斗状に広がった部分(腎杯)で受けます。
    ※MDCK細胞…イヌの腎臓の尿細管の上皮細胞から作られた実験用の細胞株をいいます。
  • 臨床症状
  • 診断の契機となる臨床症状で多いのは、腹部・側腹部・背部痛、肉眼的血尿、尿路または嚢胞感染(発熱、尿所見異常、腎部痛などを伴う)、検査で見いだされるクレアチニン値の異常、高血圧症、超音波検査やCTで見いだされる腎臓の画像異常です。また家系に多発性嚢胞腎患者がいて、上記臨床症状を伴う場合には多発性嚢胞腎がより疑われることになります.
    病態として重要なのは、進行性の腎不全、高血圧(種々の障害を引き起こします)、肝臓を含めて腎臓が嚢胞によって大きくなること(そのため、痛み、血尿、腹部膨満、摂食障害、前屈困難が出現します)、脳動脈瘤等があります.
    腎不全:多発性嚢胞腎では平均してGFR(糸球体濾過量。正常値は年齢によって異なりますが、大体100~120ml/min/1.73m2)が年2~3ml/min/1.73m2低下していきます。腎不全の程度はCKD(Chronic Kidney Disease)病期で分類されます。腎不全は比較的緩徐に進行していくので、自覚症状に乏しいのが特徴ですが、CKD3b期(GFRが45 ml/min/1.73m2未満)以降になると、貧血による症状が現れてきます。貧血が進行すると、階段や坂道で動悸、息切れがするようになります。また疲れやすくなります。CKD4期(GFR 15 ? 30)になると、貧血症状は高頻度で出現し、高カリウム血症などの電解質異常が出現し、それらの補正が必要になります。CKD5期(GFR<15 ml/min/1.73m2)になると、透析が必要になります。腎機能が悪化すれば、腎機能(GFR)低下速度が速くなる傾向があります。
    腎臓容積の増大:腎臓容積は年平均約5%の割合で大きくなります。大きくなるに従い、腹部や腰部、背部の痛みの頻度や程度が増強します。また、血尿、尿路感染の原因になります。

    腎機能の低下の進行速度は、一般にPKD1の患者さんよりPKD2の患者さんの方が緩徐です。
    (参照:『常染色体優性多発性嚢胞腎診療ガイドライン(第2版)』、2006、『多発性嚢胞腎の全て』、P.202、『心筋症を識る・診る・治す』文光堂2007、P.250-251、「多発性嚢胞腎診療指針」
  • 診断
  • ADPKDの診断基準
  • 厚生労働省特定疾患対策研究事業 進行性腎障害調査研究班が2006年にまとめたADPKDの診断基準は以下の通りです。(『常染色体優性多発性嚢胞腎診療ガイドライン(第2版)』より)

    1.家族内発生が確認されている場合
    (1)超音波断層像で両腎に嚢胞が各々3個以上確認されているもの
    (2)CT、MRIでは、両腎に嚢胞が各々5個以上確認されているもの

    2.家族内発生が確認されていない場合
    (1)15歳以下では、CT、MRIまたは超音波断層像で両腎に各々3個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合
    (2)16歳以上では、CT、MRIまたは超音波断層像で両腎に各々5個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合

    除外すべき疾患
    [1]多発性単純性腎嚢胞、
    [2]尿細管性アシドーシス、
    [3]多嚢腎(多嚢胞性異形成腎)、
    [4]多房性腎嚢胞、
    [5]随質嚢胞性疾患(若年性ネフロン癆)、
    [6]多嚢胞化萎縮腎(後天性嚢胞性腎疾患)、
    [7]常染色体劣性多発性嚢胞腎

    補足1:[ADPKDの診断]右と左の腎臓が大きくなり、たくさんの嚢胞が超音波断層像(エコー検査)、CT、MRIなどの画像検査で示されることが必要です。家族歴、症状の項目で記した他の臓器の嚢胞などがあれば、診断はより確かとなります。

    補足2:[遺伝子診断]患者個人を対象としたDNA直接診断が日本でも実用化されつつあります。費用については技術の進歩で、低額になっています。診断面におけるDNA検査の価値は低く、画像検査で通常の多発性嚢胞腎とは異なった特殊な形態をしていて、なおかつ多発性嚢胞腎が疑われるような場合、あるいは多発性嚢胞腎と家系や画像検査で診断がついていても、予後予測を希望する場合などがDNA直接検査の適応となると思われます。

    補足3:[小児]トルバプタンが市販されるようになっていますが、小児に対する安全性は確立していません。服用するとしても、ある程度自分で判断できる年齢、家族の判断、病状の程度などが勘案されて、服用を決める事が必要です。小児から長期にトルバプタンを服用した場合、腎性尿崩症に見られる水腎症や巨大膀胱の発症リスクについての検討も必要でしょう。

    ※多発性単純性腎嚢胞…年を取ることに伴い、数センチ位の直径の大きさの嚢胞が数個、右と左の腎臓に認められるようになりますが、後天性の良性疾患と考えられ、多くは治療の必要がありません。
    ※尿細管性アシドーシス…尿細管の異常によって、本来弱アルカリ性である血液(pH7.36~7.44)のpHが低下する病気です(尿細管性アシドーシスでは、H(水素)イオンの排出が阻害されるか、炭酸水素イオンの再吸収が阻害されて、血液が酸性に傾きます)。
    ※多嚢胞腎…先天性の疾患で、胎生10週以前の尿管芽膨大部(将来、腎盂やネフロンになるべき場所)発生異常によって生じます。(胎生とは、哺乳類において、受精した卵子が胎盤で母体につながり、母親の栄養などの供給を受けて成長し十分な発育をとげて、親とほぼ同じ姿になって生まれることです。胎生10週は受精後10週目という意味です)
    ※多房性腎嚢胞…良性の嚢胞性腎疾患の1つで、通常は片方の腎臓に多数の嚢胞が生じます。病因は不明ですが、4歳以下では男児に、30~40歳代以降は女性に多くみられます。
    ※ネフロン癆…常染色体劣性遺伝の疾患で小児期の慢性腎不全の原因になる重要な病気です。水を欲しがる、尿が多い、貧血、疲れやすい、成長障害を伴う慢性腎不全として発見されます。
    ※多嚢胞化萎縮腎…腎不全の患者さんに発生します。両側の萎縮腎に後天性の嚢胞が多発した病態を指します。
  • 多発性嚢胞腎の重症度の判定基準
  • 多発性嚢胞腎の重症度の判定基準は以下の通りです。トルバプタンが市販されるようになった現在では、この重症度判断は意味がなくなってきていると思われます。腎不全になる前に予防的な治療を開始する必要がありますが、トルバプタンを服用すれば効果が期待できる患者は「重症度」が低い為医療補助を受けられず、トルバプタンを服用しても効果があまり期待できない進行した病期になったら重症度が上がり、医療補助の対象になるのは、医療補助の意味が逆転してしまっているといえるでしょう。
    多発性嚢胞腎重症度判定基準(『常染色体優性多発性嚢胞腎診療ガイドライン(第2版)』より)

    重症度区分(5を最高とする)は腎機能(血清クレアチニン値で代用)を基本とし、頭蓋内動脈瘤・頭蓋内出血・腹部膨満等を加味して判定する。

    ※血清クレアチニン値…筋肉の活動の結果生産されるクレアチニンは腎臓で濾過され、体にほとんど吸収されることなく、体外に排出されます。血清中のクレアチニン量は腎臓の濾過機能と相関関係があり、濾過機能が低下すると、血清中のクレアチニンの値は上昇します。

    血清クレアチニンによって、以下のように重症度を判定する:
    1度 2mg/dL未満
    2度 2mg/dL以上~5mg/dL未満
    3度 5mg/dL以上~8mg/dL未満
    4度 非透析で、8mg/dL以上
    5度 透析を導入、または腎移植を受けているもの

    以下のものは、1度重症度を進める
    [1]頭蓋内出血の既往があるもの
    [2]頭蓋内動脈瘤のあるもの
    [3]頭蓋内動脈瘤手術、腎臓摘出術あるいは肝臓部分切除術を受けたもの
    [4]腹部膨満が著明で、日常生活に支障をきたすもの

    (参照:『多発性嚢胞腎の全て』P.203、238、257、261、279、283)
  • 治療
  • 1.トルバプタン(商品名:サムスカ)
  • トルバプタンの国際共同治験により、トルバプタンは多発性嚢胞腎の腎臓の増大速度を抑制し、腎機能の低下速度を緩和することが示されました(NEJM,2012.367;2407)。それに伴い、腎臓痛、血尿、尿路感染症の頻度が低下しています。米国FDA(日本の厚生労働省に該当)の審査では、臨床試験結果が不十分(腎機能の悪い患者が含まれていない、3年間の臨床試験途中で中断した患者のその後のデータが無いなどの理由)で承認されず、新たな臨床試験が予定されています。日本では、腎臓容積(750ml以上)や腎臓容積増大速度(概ね年5%以上)が規定以上で重篤な腎機能障害が無い(eGFRが15ml/min/1.73m2以上)患者さんへの使用が認められました(2014年3月)。
    トルバプタンを服用すると、抗利尿ホルモン(バゾプレッシン)の腎臓集合管における水再吸収促進作用がブロックされるため、尿量が増え、また血中ナトリウム濃度が高まります。そのため、脱水にならないように水分を十分に摂取することが必要です。水分補給には、カフェインや糖分の含まれる飲料水は避けるようにした方が安全です。多発性嚢胞腎の進行を抑制するためには、継続的にバゾプレッシンの作用を抑制する必要があるため、1日2回服用して薬の効果が持続することが望ましいと考えられています。
    また約5%の頻度で肝障害(ALTが正常値上限の2.5倍以上に上昇)がおこります。これまでの臨床試験では服用を中止すれば回復していますが、毎月採血をして肝障害の有無をチェックし、肝障害が現れたら、服用を中止する必要があります。
    その他の副作用として、尿酸値が上昇します。高尿酸血症の薬を併用することが必要な場合もあります。
    トルバプタンの使用は、専門的知識が必要なため、講習を受けた医師の処方が必要になっています。また、初回服用時には入院して行うことが義務づけられています。少数例ですが、緑内障の悪化例も報告されています。
  • 2.多発性嚢胞腎での進行を遅らせる治療
  • 厚生労働省の進行性腎障害調査研究班の全国調査結果(1998年)によれば、70歳までに、約50%が末期腎不全に陥ることが示されています。
    多発性嚢胞腎では飲水が抗利尿ホルモンの血中濃度を下げるため、有効だとの見解が一般的ですが、実際に飲水量を1年間増やした結果では、嚢胞の増大速度は速くなり、腎機能(eGFR)の低下速度も加速されたという報告があります。飲水を多くするとナトリウム摂取量が増え、嚢胞増大が促進された可能性があります。多発性嚢胞腎では食塩が進行を促進する可能性が強く考えられます。
    多発性嚢胞腎では、低蛋白食の効果は証明されていませんが、ある程度腎機能が低下すると他の腎疾患と同じく蛋白質の過剰摂取を避けることが望ましいでしょう。、
    降圧薬を服用して血圧を130/85未満を目標にコントロールします。多発性嚢胞腎では降圧剤にはカルシウムチャンネル阻害薬よりはARB(アンジオテンシン受容体阻害薬)の服用が良いと考えられます。
    末期腎不全では、透析か腎臓移植をしなければ生命を維持することができません。この透析の導入のタイミングについて、日本腎臓学会の「CKD診療ガイドライン2009」では次のようなガイドラインが発表されています。
    透析導入
    1 ステージ5のCKD患者では、導入が生命予後に与える影響、導入による腎不全合併症の回避、患者のQOLとリスク、医療経済の負担を考慮し、適正な導入時期を決定する。
    2 ステージ4のCKD患者でも、体液貯留、体液異常、栄養状態の悪化を認めた場合、血清Cr値にかかわらず透析導入を行う。特に糖尿病を合併しているようなハイリスク患者では、血清Cr値が比較的低値でも臨床症状を勘案して導入が望ましい。


    腎移植の成績では、多発性嚢胞腎と非糖尿病の患者さんの間には差がないことが報告されており、特にリスクが高いということはありません。事前に合併症の有無の検査を行い、適切な処置をおこなえば問題ありません。
  • 3.高血圧
  • 高血圧はADPKDの患者さんの60%に認められます。高血圧は腎機能障害が出現する以前から観察され、高血圧の患者さんはそうでない血圧の患者さんよりも腎機能の低下がより早く進みがちです。高血圧の治療としてはまず減塩食をとるようにします。降圧の目標は130/80mmHg未満(日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン』で示されている値)とし、降圧薬を服用します。

    厚生労働省の進行性腎障害調査研究班の研究成果によると、ARB(アンジオテンシン2受容体拮抗薬)はCCB(カルシウム拮抗薬)と比較して腎機能を悪化させる程度が低いことから、『常染色体優性多発性嚢胞腎診療ガイドライン(第2版)』では、ARBがADPKDにおける降圧療法の第一選択の薬剤として推奨されています。
  • 4.頭蓋内出血、頭蓋内動脈瘤、頭蓋内嚢胞
  • (1)脳内出血
    ADPKDの患者さんに頭蓋内出血が発生する頻度は一般の人の3倍で、患者さんのうち約8%の方に頭蓋内出血の既往があるといわれています。

    ADPKD患者さんの頭蓋内出血においては、動脈瘤と高血圧に高い相関関係があることがわかっています。ただし、脳動脈瘤の破裂によって脳内出血が起こることはまれで、多くはコラーゲンやエラスチン(細胞外マトリックスの1種)の分子レベルの異常によって先天的に血管が脆弱になっていて、これに長期の高血圧が加わることによって微小な動脈瘤や脂肪硝子様変性(脂肪や均一無構造のタンパク質である硝子質が沈着すること)が生じ、さらに高血圧が加わることで発生するといわれています。

    (2)くも膜下出血
    頭蓋内動脈瘤が破裂することで起こるくも膜下出血が多発性嚢胞腎の患者さんに発生する頻度は、脳内出血の発生頻度を下回っています。多発性嚢胞腎の患者さんで頭蓋内動脈瘤が破裂する頻度は患者さん全体で1/2089人・年であり、30歳以上の患者さんでは1/936人・年と報告されています。

    MRアンギオグラフィーを用いた調査では多発性嚢胞腎の患者さんの4~11.7%に頭蓋内動脈瘤が発見される一方で、一般人口では1~7%の罹患率となっています。見つかる動脈瘤の大きさは比較的小さく、ほとんどは10mm以下で、30歳以下ではMRAで見つからないことが多いです。

    多発性嚢胞患者さんのくも膜下出血の特徴としては、
    [1]動脈瘤破裂は一般の方より若年で起こる、
    [2]同一家系内に頭蓋内動脈瘤が破裂する患者さんが集まる傾向がある、
    [3]動脈瘤が小さいと出血のリスクが低くなる、
    [4]動脈瘤破裂と腎機能とは相関しない、
    [5]くも膜下出血の激しさの程度は高血圧と関係している、
    [6]破裂する危険性が高い、
    [7]一般的には男性の頻度の方が高いが、多発性嚢胞腎の患者さんでは性差がみられないことが挙げられます。
    未破裂の動脈瘤が発見された場合、くも膜下出血の家族歴がなく無症状の患者さんには内科的治療がすすめられ、家族歴や症状がある患者さんには外科的治療(クリッピング術、コイル塞栓術)が考慮されます。

    ※MRアンギオグラフィー(MRA)…磁気共鳴血管造影法。MRIの原理を応用して、造影剤を血管に入れることなく、痛みや危険を伴うことなしに血管を描き出すことができます。
    ※クリッピング術…開頭して、直視下で動脈瘤頸部を金属製クリップで閉塞します。
    ※コイル塞栓術…血管内治療手技で白金製コイルを動脈瘤頸部に留置して閉塞します。
  • 5.その他の異常
  • (1)嚢胞の合併
    嚢胞は多臓器にわたり、肝臓、膵臓、精嚢、くも膜にできます。肝嚢胞の頻度は女性に多く(男性70%、女性80%)、出産経験のある患者さんでは肝嚢胞が大きくなる傾向があります。肝嚢胞の数は加齢とともに増加します。多発肝嚢胞による肝機能障害は一般にはみられませんが、頻呼吸、疼痛、ADL(日常生活動作)の低下、かかとの浮腫、まれにIVC(下大静脈)の圧迫が問題になります。患者さんのQOL向上のため、外科的治療が行われることがあります。
    ※下大静脈…人体最大の静脈で、下半身からの血液を集めて心臓へ流し込んでいます。

    (2)感染症
    多発性嚢胞腎患者は尿路感染を合併しやすく、50%の方が経験します。男性よりも女性に顕著です。感染性嚢胞腎の治療としては、まず抗菌剤を投与します。

    単純性腎盂腎炎であれば抗菌剤の投与で軽快しますが、嚢胞内感染は難治性です。嚢胞内に浸透するのは脂溶性薬剤(油にとけやすい薬剤をいいます。ビタミンE剤もこの仲間です。)に限られますので、グラム陰性桿菌(桿菌とは体の形が細長い細菌をいい、グラム陰性桿菌とはグラム染色液で染色されない桿菌のことをいいます。この種類には病原性のものが多くみられ、ピロリ菌、チフス菌、肺炎桿菌、緑膿菌などがこれに属します。)に効果の高い脂溶性薬剤の使用が望まれます。しかし、全身的な敗血症(血液やリンパ管に細菌が侵入して、毒素のため全身が急性の中毒症状になることをいいます。)をきたした時は、敗血症を引き起こした原因菌に対応する抗生物質を投与します。

    抗生物質によっても感染症が改善できない時、もし原因となる感染嚢胞の場所がわかっていれば、後腹腔鏡下嚢胞開窓ドレナージ術(背中側から内視鏡を入れ、嚢胞壁の一部を切除して窓を開け、嚢胞内の液を持続的に排出させることによって、嚢胞の内圧を減らしたり、嚢胞そのものを縮小させたりします。)、超音波ガイド下ドレナージ(局部麻酔をかけて超音波エコーの下、針を皮膚から刺して嚢胞に溜まっている液を吸引し、その後造影剤を入れて嚢胞が尿路や胆管とつながっていないことを確認してから、液が再び溜まらないようにエタノールや抗生物質の「塩酸ミノサイクリン」を注入して終了します。)が有効です。

    (3)心疾患
    心疾患として、左室肥大、僧帽弁逆流症、大動脈弁逆流症が認められ、その頻度は0~30%という報告があります。また、PKD1の患者さんには僧帽弁逆流症(12.8%)や僧帽弁逸脱症(25.7%)が多いというデータもあります。

    心機能低下の危険因子となるのは、高血圧と左室肥大です。左室肥大の進行を抑制するためには、積極的な降圧(血圧の目標は120/80以下)が求められます。

    ※左室肥大…血を送り出す左心室の筋肉が厚くなった状態をいいます。
    ※僧帽弁逆流症…僧帽弁閉鎖不全症ともいい、左心室の入り口にあるこの弁が正しく閉じることができず、血液が逆流をきたすことをいいます。
    ※大動脈弁逆流症…大動脈弁閉鎖不全症ともいい、心臓の出口にあるこの弁が正しく閉じることができず、血液が逆流をきたすことをいいます。
    ※僧帽弁逸脱症…僧帽弁の先がずれて、きちんと閉まらなくなった状態をいいます。進行すると僧帽弁閉鎖不全症になります。

    (4)尿路結石症
    腎結石の頻度は多発性嚢胞腎患者さんの10~36%と報告されており、CTで間質や嚢胞の石灰化は50%の患者さんに見つかります。結石の成分は尿酸とシュウ酸カルシウムが多く、尿酸含有結石の割合は50%以上(一般5~10%)となっています。尿うっ帯、低クエン酸尿、アンモニウム産生障害による尿酸性化などが成因とされています。結石は体外衝撃破砕結石術や内視鏡手術で除去できます。

    ※体外衝撃破砕結石術…衝撃波を発生させる装置を用いて衝撃波エネルギーを体内の結石に照射し、結石を細かく砕く治療法です。

    (5)血尿
    肉眼で確認できる血尿は患者さんの37%が経験しているといわれています。嚢胞の出血が尿路に破れ出たり、間質から出血したりして起こると推測されています。尿路感染やスポーツ、過度のストレスなどが契機となって発症し、1週間以内に自然に止まることが多いです。長引いた場合には、貧血にも気をつけ、尿路結石や悪性腫瘍の合併にも注意します。高度な貧血に対しては輸血、腎動脈塞栓術、腎摘除術等がおこなわれることがあります。

    (6)大腸憩室と腹壁ヘルニア
    大腸粘膜の一部が腸管内圧の上昇により嚢状に腸壁外に突出したものをいいます。透析中の多発性嚢胞腎の患者さんは、他の透析患者さんよりも大腸憩室の頻度が高く、大腸憩室炎により直腸穿孔を起こすことが多いとされています。透析導入や腹膜透析前に大腸スクリーニング検査が望ましいという指摘もあります。
    鼠径ヘルニアは一般人より5倍多いとされていますが、肝臓や腎臓が腫大する前でも多いかは不明です。肝臓や腎臓が嚢胞で巨大になった場合、圧迫で腹壁の脆弱化が起こり、臍ヘルニアや腹直筋ヘルニアをおこします。

    ※大腸スクリーニング検査…内視鏡を使って大腸に病変がないかチェックします。
    ※鼠径ヘルニア…鼠径靱帯上方で鼠径部に腸などが脱出するヘルニアをいいます。

    (参照:『多発性嚢胞腎の全て』P.173、233-236、『常染色体優性多発性嚢胞腎診療ガイドライン(第2版)』、2006)
  • 外科的治療
  • 嚢胞に対する外科的治療法は腎機能を改善することはできませんが、圧迫症状、疼痛、感染によるQOLを改善することができます。患部の状態や疾患の進行状況を勘案して、以下のような治療法が選択されます。
  • 嚢胞穿刺硬化療法
  • 腎臓や肝臓に1つもしくは少数の大きな嚢胞がある時に選択されます。局部麻酔をかけて超音波エコーの下、針を皮膚から刺して嚢胞に溜まっている液を吸引し、その後造影剤を入れて嚢胞が尿路や胆管とつながっていないことを確認してから、液が再び溜まらないようにエタノールや抗生物質の「塩酸ミノサイクリン」を注入して終了します。成功率は1回の治療で70%、追加治療で更に20%位よくなりますが、成績は嚢胞の大きさに反比例します。
  • 嚢胞開窓術
  • 嚢胞壁の一部を切除して窓を開け、嚢胞内の液を持続的に排出させることによって、嚢胞の内圧を減らしたり、嚢胞そのものを縮小させたりすることができます。腎機能の改善を期待して盛んにおこなわれた時期がありましたが、改善することはなく、腎機能改善目的としては1980年頃からあまりおこなわれなくなりました。それ以外の目的、例えば感染嚢胞の治療や嚢胞に起因する疼痛や腹部圧迫症状のひどい場合に行われます。
  • 腎摘除術
  • 通常、末期腎不全になってからおこないますが、肝腎腫大による消化管の圧迫で食事が十分摂取できないなど症状が極端に強い場合には、腎機能があってもおこなわれることがあります。また、腎癌の疑いがある場合や血管の問題で動脈塞栓術が難しい症例については、積極的に選択されます。
  • 動脈塞栓術
  • 嚢胞は動脈末梢枝という血管から栄養を得ており、白金製コイルをこれに詰めて塞ぐことにより、嚢胞を縮小させます。透析を導入して尿量がかなり減っている(1日当たり500mL未満)患者さんが強くこの治療を望んだ時や、腎不全保存期症例(透析以前)で出血をきたして出血部位が特定されている場合に適応されます。
    なお、動脈硬化が強く大腿動脈の穿刺が困難な場合(塞栓は大腿動脈から刺し入れたカテーテルによっておこなわれます)や腹部大動脈の閉塞蛇行が強くカテーテル操作で腎動脈にたどりつけない場合は、適応除外となります。

    (参照:『多発性嚢胞子腎の全て』P.176-181、3『常染色体優性多発性嚢胞腎診療ガイドライン(第2版)』、2006)
  • 経過・予後
  • 透析に入ったADPKD患者さんの長期予後は比較的良好です。1983年以降、透析を受け始めた患者さんの20年生存率は24.9%で、透析患者さん全体の19.8%より高くなっています。主要な死因は心不全21%、脳血管障害21%、感染症14%で、脳動脈瘤によるくも膜下出血だけではなく、脳梗塞、脳内出血の割合も多くなっています。

    (参照:『多発性嚢胞腎の全て』P.203-204、『常染色体優性多発性嚢胞腎診療ガイドライン(第2版)』、2006)
  • ケア
  • 多発性嚢胞腎の患者さんは腎機能障害状態にありますので、高血圧にならないように生活習慣を改めます。日本高血圧学会のガイドライン(『高血圧治療ガイドライン2009』)では、塩分制限(1日6g以下)、アルコール摂取の制限(1日当たりエタノールベースで男性20~30mL以下、女性10~20mL以下)、有酸素運動を30分以上定期的に実施、適正体重の維持(BMI[体重<Kg>を身長<m>の2乗で割った値]が25を超えない)、野菜や果物を積極的にとり、コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控える、禁煙をすることが求められています。降圧剤を服用し、自宅で血圧測定をおこなうなどして適切に管理して下さい。

    また、格闘技や身体が直接ぶつかるようなスポーツは避ける、非ステロイド性炎症鎮痛薬は腎機能の低下を招くおそれがあるため漫然と服用しない、タンパク質の摂取の制限で腎機能の悪化が防止されるという見方にははっきりとした裏付けはありませんが、過剰な摂取は避けた方が良いと思われます。コーヒー(カフェイン)の飲みすぎも嚢胞の増大に良くないとされています。

    (参照:『常染色体優性多発性嚢胞腎診療ガイドライン(第2版)』、2006)
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