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9月23日(日)
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疾患

  • 定義・概念
  • 神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)は、1882年にドイツの病理学者Friedrich Daniel von Recklinghausenによって報告されました。遺伝子の異常に伴って、カフェ・オ・レ斑と呼ばれる特有の色素斑や、神経線維腫を生じます。その他にも、骨病変・眼病変・神経腫瘍など多彩な症候を合併する全身性母斑症です。
  • 疫学
  • 1994年の全国疫学調査から、日本での神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)の患者数は推定約40,000人、出生約3,000人に1人の割合で発症するといわれています。罹患率に男女差や人種による差はありません。常染色体優性の遺伝性疾患のため、患者さんの約半数は両親どちらかが神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)です。残りの半数は両親ともこの病気ではなく、遺伝子の突然変異で発症した人です。また、夫婦のどちらかがこの病気の場合、その子どもに病気が遺伝する確率は2分の1です。

    ※常染色体優性
    常染色体はヒトが体細胞に備えている性染色体以外の染色体のことです。通常ヒトは22対、44本の常染色体を持っています。常染色体優性遺伝の疾患は、常染色体上にある1対の遺伝子において、父由来の遺伝子、母由来の遺伝子、いずれか一方に異常がある時に発症します。患者さんのお子さんが同じ病気になる遺伝子を持つ確率は50%です。
  • 成因
  • 神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)の病因は、17番染色体上にあり、 neurofibromin と呼ばれる蛋白質を作る遺伝子の変異・欠失です。この蛋白質は、我々ヒトを構成する細胞の増殖シグナルを消すはたらきがあるとされ、この蛋白質が変化した結果、細胞の増殖シグナルが消されなくなり、細胞増殖や細胞生存、器官発生などに影響を及ぼして神経線維腫症Ⅰ型に伴う色々な病変がおこるとされています。
  • 臨床症状
  • 主症状
    1) カフェ・オ・レ斑
    扁平で盛り上がりがなく、丸みを帯びた神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)特有の色素斑です。色は淡いミルクコーヒー色から濃い褐色などさまざまで、形は長円形のものが多く見られます。

    2) 神経線維腫
    皮膚の神経線維腫は、思春期頃から全身に多発することが多いです。そのほかに、大型でびまん性の神経線維腫が見られる場合もあります。

    その他の症状
    1) 皮膚病変:雀卵斑様色素斑(小レックリングハウゼン斑)、有毛性褐青色斑、貧血母斑、若年性黄色肉芽腫など。
    2) 神経系病変:末梢神経の神経線維腫や脳神経ならびに脊髄神経の神経線維腫、脳腫瘍、悪性末梢神経鞘腫瘍など。
    3) 骨病変:脊椎の変形、四肢骨の変形、顔面骨・頭蓋骨の欠損など。
    4) 眼病変:虹彩小結節、視神経膠腫など。
    5) その他の病変:褐色細胞腫、Gastrointestinal stromal tumor (GIST)など。

    ※雀卵斑様色素斑:そばかす状のしみのことです。
    ※有毛性褐青色斑:褐青色のしみの部分に硬毛が生えてくるものです。
    ※貧血母斑:出生時から存在する、局所的な毛細血管の機能障害によって皮膚をこすった時に生じる蒼白斑のことです。
    ※若年性黄色肉芽腫:幼少時に見られる黄色がかった小さな発疹で、数年で自然消失します。
    ※褐色細胞腫:副腎髄質細胞から発生する腫瘍です。腫瘍からカテコールアミンといわれるホルモンが過剰に産生され、重症の高血圧などを引き起こします。
  • 診断
  • カフェ・オ・レ斑と神経線維腫がみられる場合、診断は確実です。乳児や小児の場合は、直径1.5cm以上のカフェ・オ・レ斑が6個以上あれば神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)である疑いが強く、家族歴やその他の症状を参考として診断されます。
    日本皮膚科学会が作成した神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)の診断基準は以下の通りです。
    日本皮膚科学会【神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)の診断基準】(2008年)
    (概念)
    カフェ・オ・レ斑、神経線維腫を主徴とし、皮膚、神経系、眼、骨などに多種病変が年齢の変化とともに出現し、多彩な症候を呈する全身性母斑症であり、常染色体優性の遺伝性疾患である。
    (診断基準)
    1.6個以上のカフェ・オ・レ斑*1
    2.2個以上の神経線維腫(皮膚の神経線維腫や神経の神経線維腫など)またはびまん性神経線維腫*2
    3.腋窩あるいは鼠径部の雀卵斑様色素斑(freckling)
    4.視神経膠腫(optic glioma)
    5.2個以上の虹彩小結節(Lisch nodule)
    6.特徴的な骨病変の存在(脊柱・胸郭の変形、四肢骨変形、頭蓋骨・顔面骨の骨欠損)
    7.家系内に同症
    7項目中2項目以上で神経線維腫症1型と診断する。
    <その他の参考所見>
    1.大型の褐色斑
    2.有毛性褐青色斑
    3.若年性黄色肉芽腫
    4.貧血母斑
    5.脳脊髄腫瘍
    6.褐色細胞腫
    7.悪性末梢神経鞘腫瘍
    (診断のポイント)
    *1:多くは出生時からみられる扁平で盛り上がりのない斑であり、色は淡いミルクコーヒー色から濃い褐色に至るまで様々で色素斑内に色の濃淡はみられない。通常大きさは1~ 5 cm程度で、形は長円形のものが多く、丸みを帯びた滑らかな輪郭を呈する(小児では大きさが0.5 cm以上あればよい)。
    *2:皮膚の神経線維腫は常色あるいは淡紅色の弾性軟の腫瘍であり、思春期頃より全身に多発する。圧痛、放散痛を伴う神経の神経線維腫やびまん性に隆起したびまん性神経線維腫がみられることもある。
    (診断する上での注意点)
    1.患者の半数以上は弧発例で、両親ともに健常のことも多い。
    2.幼少時期にはカフェ・オ・レ斑以外の症候はみられないことも多いため、疑い例では時期をおいて再度診断基準を満たしているかどうかの確認が必要である。
    3.個々の患者にすべての症候がみられるわけではなく、症候によって出現する時期も異なるため、本邦での神経線維腫症1型患者にみられる症候のおおよその合併率と初発時期(表1)を参考にして診断を行う。
    4.重症度(DNB)分類は神経皮膚症候群研究班(厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患克服研究事業)
    が作成したものを用いる。Stage 4またはstage 5と診断されたものについては特定疾患治療研究事業における医療費の補助・給付の対象となる(表2)。
    表1 本邦神経線維腫症1型患者にみられる主な症候のおおよその合併率と初発時期
    症候合併頻度初発時期
    カフェ・オ・レ斑
    皮膚の神経線維腫
    神経の神経線維腫
    びまん性神経線維腫
    雀卵斑様色素斑
    視神経膠腫
    虹彩小結節
    脊椎の彎曲
    四肢骨の変形・骨折
    頭蓋骨・顔面骨の骨欠損
    95%
    95%
    20%
    10%
    95%
    1%
    80%
    10%
    3%
    5%
    出生時
    思春期
    学童期
    学童期
    幼児期
    小児期
    小児期
    学童期
    乳児期
    出生時
    さらに神経皮膚症候群研究班(厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患克服研究事業)が作成した重症度(DNB)分類によって、重症度を区分されます。
    表2 重症度分類(DNB分類)
    Stage 1:D1であってN0かつB0又はB1であるもの
    Stage 2:D1又はD2であってN2及びB3を含まないもの
    Stage 3:D3であってN0かつB0であるもの
    Stage 4:D3であってN1又はB1、B2のいずれかを含むもの(ただしStage 5に含まれるものを除く)
    Stage 5:D4、N2、B3のいずれかを含むもの
    皮膚症状(D)
    D1:色素斑と少数の神経線維腫が存在する
    D2:色素斑と比較的多数の神経線維腫が存在する
    D3:顔面を含めて極めて多数の神経線維腫が存在する
    D4:びまん性神経線維腫などによる機能傷害や著しい身体的苦痛又は悪性末梢神経鞘腫瘍の併発あり
    神経症状(N)
    N0:神経症状なし
    N1:麻痺、痛み等の神経症状や神経系に異常所見がある
    N2:高度あるいは進行性の神経症状や異常所見あり
    骨症状(B)
    B0:骨症状なし
    B1:軽度の脊柱変形ないし四肢骨変形あり
    B2:中程度のnon-dystrophic typeの脊柱変形あり
    B3:高度の骨病変あり<四肢骨変形、骨折、偽関節、dystrophic typeの脊柱変形(側彎あるいは後彎)、頭蓋骨欠損または顔面骨欠損>
  • 治療
  • 現在のところ、患者さんを完全に神経線維腫症Ⅰ型(レックリングハウゼン病)から解放できるような根本的な治療法はありません。しかし、神経線維腫症Ⅰ型によってもたらされるいろいろな症状に対する治療は可能です。患者さんの年齢や症状に合わせて各種対症療法を行います。また、皮膚だけでなく、骨・眼・神経にも病変が出現するため、患者さんの症状によって行なうべき治療はさまざまですが、皮膚の神経線維腫や色素斑は皮膚科医や形成外科医、眼病変は眼科、神経系病変は(脳)神経外科、発達や成長の心配があれば小児科医、骨格の病変は整形外科医など症状に応じて各領域の専門医と協力して治療を行うことが大切です。
  • 皮膚病変
  • カフェ・オ・レ斑は、見た目の問題から患者さんのQOLを考慮して、レーザー機器を用いた除去を行います。顔面の場合は、化粧品のカバーファンデーションを用いることも有用です。

    神経線維腫の内、皮膚に発生しているものは整容的な観点かつ患者さんの精神的苦痛を改善するため外科的切除を行います。中でも、びまん性神経線維腫は徐々に増大し、弁状に垂れ下がってくるため視野制限や運動制限など機能障害が発生します。腫瘍内出血や悪性神経鞘種の危険性もあるので、腫瘍が大きくなる前の外科的切除が望ましいです。ただし、腫瘍切除時には大量出血などのリスクもあります。

    雀卵斑様色素斑(小レックリングハウゼン斑)は、主に腋窩(わきの下)や鼠径部など目立たない箇所に生じるため放置することが多いですが、除去する場合はレーザー機器を用います。
    有毛性褐青色斑は、硬毛を伴っている場合、整容上の問題から外科的切除になることがあります。
    貧血母斑・若年性黄色肉芽腫は、通常治療を必要としません。
  • 神経系病変
  • 末梢神経の神経線維腫は、圧痛や放散痛を伴うことが多く、稀に悪性末梢神経鞘腫瘍の発生の母地となるため外科的切除が望ましいです。しかし、神経を切断することになるので、知覚が鈍くなる恐れがあります。

    脳神経ならびに脊髄神経の神経線維腫は、痛みやしびれなどの症状が現れた場合には精密検査を行い、外科的切除を考慮します。ただし、切除が難しい場合や術後後遺症が残る恐れがあります。

    脳腫瘍は、神経線維腫症1型では頻度は低いですが神経膠腫などを合併する恐れがあります。腫瘍増大にともなって中枢神経に症状が出た場合は、早期に脳神経外科専門医に相談し、外科的切除を考慮します。

    なお、悪性末梢神経鞘腫瘍の合併率は2%ですが、悪性末梢神経鞘腫瘍は、広範囲外科的切除が第一選択で、発生部位が四肢の場合は切断の可能性もあります。広範囲切除が出来ない場合や、早期に転移している場合は放射線療法や化学療法を用いますが、その効果は低く、再発も多いです。5年生存率は30~40%と極めて予後不良で、発見時の腫瘍の大きさが再発や予後に影響を与えるという報告があります。
  • 骨病変
  • 脊椎の変形は10歳前後から見られ、15歳を過ぎてから新たに症状が出現することは稀です。側弯・前弯・後弯とありますが、側弯の症状が多く、必要に応じてX線検査などを行い、整形外科専門医へ相談します。変形が著しくなる前に脊椎固定術を行ってください。変形の度合によっては外科的治療の可能性もあります。

    四肢骨の変形は、容易に骨折して偽関節を形成するため、早期に整形外科専門医へ相談します。主な治療は外科的治療で、外部からワイヤーで骨を牽引し固定する方法や骨移植などです。
    顔面骨・頭蓋骨の欠損は、小さい骨欠損の場合は放置されることが多いです。大きい骨欠損の場合は、髄膜瘤や脳瘤を起こす危険性があるため、自家骨による頭蓋骨形成などの外科的治療を脳神経外科専門医と相談します。
  • 眼病変
  • 虹彩小結節(Lisch虹彩、眼にできる小さな腫瘍)は、視力障害をきたすことはほとんどないため、通常治療を必要としません。
    視神経膠腫(視神経にできる良性腫瘍)は、日本において合併頻度は低く、発生部位により様々な症状がでますが、多くの場合無症状で経過します。治療を必要とすることは稀ですが、視力障害などの症状が出現した場合は眼科専門医、脳神経外科医と相談し、治療します。
  • その他の病変
  • 褐色細胞腫(副腎髄質細胞から発生する腫瘍)の合併頻度は極めて稀ですが、高血圧や副腎に腫瘍が見られる場合は泌尿器科専門医に相談し、外科的切除を考慮します。
    Gastrointestinal stromal tumor (GIST)は消化管壁に発生する腫瘍で、放置すると腸閉塞や消化管穿孔を起こすことがあるため注意が必要です。下血や腹痛などの症状がある場合は、まず消化器外科専門医に相談し、症状によって外科的切除を考慮します。
  • 外科
  • 神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)では、皮膚に整容上の問題を意識するほどの神経線維腫・びまん性神経線維腫が発生した場合や、脳・末梢神経内に神経線維腫が発生した場合、悪性末梢神経鞘腫瘍が発生した場合、外科的切除で除去されます。

    また、大型の骨欠損の場合は自家骨もしくは人工骨を用いた外科的治療が、四肢骨の変形には血管柄付き骨移植や、骨を切断し外部からワイヤーで骨を固定し牽引する(イリザロフ法)治療が行われます。

    脊椎変形がひどい時には外科的矯正術を行います。矯正術には、脇を切開して脊椎の前方を金属(ねじ、フック、ワイヤー、ロッドなど)で固定し矯正する前方法と、背中を切開して脊椎の後方を金属で固定し矯正する後方法があります。症状によっては、前方・後方法を同時に行って治療します。

    日本レックリングハウゼン病学会では、当疾患を専門のひとつとして診療している様々な診療科の医師に「全国レックリングハウゼン病診療ネットワーク」に参加するよう呼びかけています。患者さんが医療機関を受診される際に参考になさってください。
    http://www.recklinghausen.jp/network/index.html
  • 経過・予後
  • 神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)の症状は、必ずしも全ての患者さんに出現するものではありません。カフェ・オ・レ斑と神経線維腫はほとんどの患者さんに出現しますが、カフェ・オ・レ斑は生まれた時から出現し、1歳以後に増えることはありません。神経線維腫は思春期頃から徐々に出現します。その他の病変については、出現の頻度や年齢はさまざまなので、医師による定期的な診察を心がけてください。ごく稀に悪性末梢神経鞘腫瘍が発生した場合などを除いて、神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)が原因で死亡することはほとんどないため、生命の予後は比較的良好です。

    (参照:難病情報センターHP 神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)の項、および『難病の診断と治療方針1三訂版』疾病対策研究会 2005 P.491、および『神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)の診断基準および治療ガイドライン』日皮会誌:118(9),1657-1666)
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